【相談事例】しゃれた横文字の商標を出願しようと考えています。造語なので確実に取れますよね?

相談者(30代女性)

新しくアパレルの企業を起ち上げる準備をしています。自社ブランドとしてしゃれた横文字の名称をいくつか用意しました。あまり費用や時間をかけずに商標権を取得しておきたいと思います。横文字の名称ですが、実在するフランス語などの単語ではなく、全て私が創作した造語です。ネットで検索しても全く同じ名称は1つもヒットしませんでした。これなら、スムーズに商標権を取得できますよね。

回答者:弁理士

先行商標との類否は、称呼・外観・観念を総合して判断されます。そのため、造語であっても、似たような呼び方をする商標や、似たような見た目の先行商標との類似を指摘される必要があります。その際の対応策のファーストチョイスは「類似していない」と書面で反論することとなりますが、出願前にどのような商標との類似を指摘され、それに対してどう反論するか、軽くで良いので調査を入れておくことをお勧めいたします。

造語は独自性が強いが当然商標権が取得できるわけではない

新しいビジネスやサービスを始める際、覚えやすく印象に残る名称を考えることは、多くの事業者が頭を悩ませる工程です。名称ひとつでブランドイメージが大きく変わり、顧客の認知や信頼形成にも影響するため、ネーミングは戦略上きわめて重要な位置づけになります。この過程で、既存の単語を避け、個性を出すために造語を選択するケースはよく見られます。一般語や説明的な言葉をそのまま商標化しようとすると、社会的に自由に使えるべき言葉を特定企業が独占してしまうおそれがあるため、商標法では登録が認められにくいのが実情です。「FRESH」「SWEET」「TECH」といった誰もが普通に使用する単語を独占されれば、同業他社に不利益が生じ、公正な市場競争が損なわれます。そのため、こうした単語の商標出願は拒絶される可能性が高いと理解されます。
そこで、「独自の造語なら問題なく登録できるだろう」という考え方に至る人は多いです。造語であれば辞書にも載っていない新しい言葉ですから、創作性と独自性に富み、出願者だけの独自ブランドを表現できるため、他人と区別しやすいという期待が働きます。事業者が自身の理念やビジョンを込めた造語を作り、ブランドの中心に据えたいと願うのは自然なことです。
しかし、商標制度には「造語だから無条件に登録できる」という仕組みはありません。造語であっても拒絶されうる場面があり、それらは審査基準や審査運用を理解していないと見落としがちです。造語の創作そのものは価値がある一方、商標登録の観点では別の評価軸が存在します。そのため、造語を考案しただけでは不十分であり、出願段階での評価やリスク分析が不可欠となります
そこで本稿では、造語商標が抱える潜在的な注意点や、どのような観点で準備・検討を進めるべきかについて、順を追って丁寧に解説します。特に、造語の特徴を活かしつつ商標登録の成功確率を高めるために必要な知識と視点を整理し、事業者が戦略的にブランディングを進められるよう、実務上の考え方を丁寧に説明していきます。

商標の類否判断基準

造語が商標として適切かどうかを判断する際に避けて通れないのが「類否判断」です。商標制度においては、既に登録されている商標と混同を生じさせないことが最も重要な原則のひとつです。ここでいう混同とは、消費者が商品やサービスの出所を誤認してしまう可能性のことです。商標審査では、これを防ぐために称呼・外観・観念の三つの観点から総合的に判断されます
称呼とは、商標を口にしたときの「音」の類似です。全く同じ発音である必要はなく、重要なのは「耳にした消費者が似ていると感じて混同する可能性があるかどうか」です。例えば、「バリス」と「パリス」のように一音違うだけでも、取引現場で誤認が生じるおそれがあれば類似と判断されます。ひらがな・カタカナ・ローマ字の表記の違いがあっても、発音が同一であれば称呼上は類似となることがあります。
外観とは、見た目の印象です。文字列の長さ、形状、配列、アルファベットの大文字・小文字の使い分けなどが評価対象となり、たとえ音が異なっても、文字構成が似ている場合に類似とされることがあります。図形商標の場合は線の角度や配置も考慮され、細かな違いでは差別化が難しい場合があります。
観念とは、商標が表す意味やイメージです。「海」と「OCEAN」のように言語が異なっても同じ概念を指す場合、観念上の類似があると判断されます。造語は意味を持たないため観念が成立しにくいですが、擬態語や一般語に近い造語では、特定の観念を想起させる場合があります。
これら三つの要素は独立した基準ではなく、総合的に評価されます。つまり、いずれかが類似していれば即拒絶とは限りませんが、消費者が混同する可能性を少しでも排除するため、慎重な判断が求められます。造語だから自由にできるという考え方ではなく、制度の趣旨を理解した上で名称選定を進める必要があります。

造語であっても、称呼・外観は類似するおそれ

造語は意味を持たないという点で観念が成立しにくいため、観念に基づく類似判断は避けられる傾向にあります。しかし、称呼や外観の面では、造語であっても既存商標と類似する可能性が十分にあります。造語といっても、音の組み合わせにはある程度パターンが存在し、言語的な構造が似ていれば偶然似通うことは珍しくありません。
例えば、「テラリオ」と「テラリア」のように、語尾を変えただけの造語はしばしば見かけますが、消費者からすれば発音が近く、誤認の可能性が生じます。音の数が近いほど混同のリスクが上がりますし、アクセントや発音リズムが類似しているとさらに類似と判断されやすくなります。音楽でリズムが似ているメロディーが同じ曲に聞こえるように、言葉も音の流れが似ていると混同を招きます。
また、造語は文字の並びがシンプルになりがちであるため、外観面で既存商標と近くなるおそれもあります。例えば英語風の短い造語を作れば、他社の欧文商標と似てしまうことはよくあります。文字数が少ないほど差別化が難しく、無意識のうちに既存商標と似た構成になりがちです。
したがって、造語だから安全という考え方は危険です。むしろ造語こそ、称呼と外観の観点で綿密な先行調査が必要になります。出願前に商標データベースを検索し、音の近さや文字構成の類似を確認することは必須といえます。造語は創作の自由度が高い分、他者商標と交錯しやすく、慎重な判断が求められます。

類似先行商標を指摘された場合の対応

出願後、特許庁から類似商標の指摘を受けることがあります。この段階で焦る必要はありませんが、適切な対応策を理解しておくことが重要です。対応策は概ね三つに整理できます。
第一の対応は、書面による反論です。造語の場合、観念が一致しにくいことから、称呼や外観での具体的な相違点を論理的に説明し、混同の可能性が低いことを明確に示します。音の切れ目、アクセント、構成音節の違いなどを指摘し、消費者が区別可能であると合理的に説明します。視覚面でも、文字数の違いや文字構成、フォント印象などを示し、取引上誤認が生じないと主張します。丁寧な説明は審査官の判断に大きく影響し、反論が成功する場合もあります。
第二の選択肢は、不使用取消審判の請求です。先行商標が過去三年間使用されていなければ、権利を抹消できる制度があります。権利が維持されているだけで市場実態が伴っていない商標に対し、排除手続きをとることで、登録の障害を取り除くことが可能です。ただし、調査と手続きにコストや時間がかかるため、事業計画上のスケジュールも踏まえて判断する必要があります。
第三の方策は補正です。先行商標と衝突する商品・サービス区分(類似群コード)を削除することで、権利範囲を限定しつつ登録を目指します。自社の事業展開に直結する商品群を守りつつ、競合範囲を狭める現実的な選択ですが、将来の事業拡大を想定して慎重に判断すべきです。
このように、類似指摘への対応は複数の選択肢があります。重要なのは、出願時点でこれらの可能性を認識し、余裕を持って対応できる準備をしておくことです。

類似を指摘されないための方策

そもそも類似指摘を受けないようにするための工夫も重要です。もっとも基礎的な注意点として、短い造語は危険性が高いことが挙げられます。短い名称は覚えやすくキャッチーですが、構音の組み合わせが限られるため、既存商標と似る確率が高くなります。
そこで有効な手段として、まず図形を組み合わせた商標とする方法が挙げられます。文字商標と図形商標を併用することで、外観上の差別化が容易になり、商標審査で類似を回避しやすくなります。ブランドロゴとして視覚的に印象づけることもでき、顧客の認知向上にもつながります。
次に、造語自体をより複雑にする手法があります。音節を増やしたり、特定の言語体系では自然に生まれにくい音を組み合わせたりすることで、類似リスクを低減できます。「覚えやすさ」「言いやすさ」「独自性」のバランスを考慮しながら、独自の語感を磨くことが望まれます。ブランド開発の初期段階で、複数候補を検討し、検索や調査を重ねる姿勢が不可欠です。
商標選定は創造的な行為であると同時に戦略的な判断プロセスでもあります。市場分析と法律的観点を両立させることで、長期的に価値を持つ商標を作り上げることができます。

まとめ

造語商標は魅力的であり、ブランド戦略において大きな武器となり得ます。しかし、造語というだけで商標登録が保証されるわけではありません。称呼や外観で既存商標と類似する可能性がある以上、出願前の慎重な調査と分析が不可欠です。登録段階で類似指摘を受けても、反論や不使用取消請求、補正など複数の対策がありますので、冷静に最適策を選択することが重要です。
さらに、そもそも類似を回避するためには、図形の導入や造語の構造を工夫するなど、戦略的にネーミングする姿勢が求められます。商標は単なる名称ではなく、事業の信頼と価値を象徴する資産です。造語を活かしつつ、制度理解と戦略思考を持って商標登録へ臨むことで、長期的に強いブランドを築くことができます。
当センターではこうした造語の商標出願に先立ち、綿密な調査と戦略策定でより確実なブランド構築をサポートしております。下記よりお気軽にご相談ください。

 

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