相談者(30代女性)
自社で新しく古着の取引ができるプラットフォームビジネスを始めます。そのアプリの名について商標をとろうと思うのですが、どのように商品・サービスを決めればよいでしょうか。たくさんの商品やサービスの名称がありますが全部とることはできるのでしょうか。また、特許庁の一覧にない商品やサービスでは商標はとれないのでしょうか。
回答者:弁理士
商標登録は商品区分一覧に記載されていない内容でもとれることがありますので、取得したい商品名やサービス名がありましたらお気軽に弁理士にご相談ください。商標登録は全分野について取得することはできず、一定の制限があります。また、特許庁の手数料は、取得する商品・サービスの数ではなく、いくつの区分数に跨っているかで変動しますので、商品・サービスの設定の仕方で費用が変わってくることから慎重に定める必要があります。そして何より重要なのは、将来のビジネス展開を見越して、必要な範囲をもれなく抑えるよう工夫する必要があります。
1つの商標では22個まで商品等コードを設定することができる
商標出願において、重要なポイントのひとつが「商品・サービスの範囲」、すなわち指定商品・指定役務の設定です。一般には「何の商品やサービスに使うか」を考えることで範囲を決めていきますが、実際には少し複雑な仕組みが採用されています。特許庁では、商品やサービスを識別するために「商品等コード」という分類があり、これが出願時の上限として機能します。つまり、1つの商標出願につき最大22個までしか商品等コードを設定できないというルールがあります。
この22個の上限は「商品分類」(いわゆる国際分類=区分)とは異なるものです。たとえば、同じ商品等コードに含まれる複数の商品名を記載することは可能です。極端に言えば、1つのコード内で10種類の商品を挙げても問題ありません。逆に、似たような商品でも異なる商品等コードに該当すれば、それぞれが1つずつカウントされてしまいます。
このように、商品等コードを意識せずに商品・サービスを列挙してしまうと、知らぬ間に22個の上限を超えてしまい、出願が受理されないリスクもあります。したがって、出願前には自社の事業に必要な範囲をよく検討し、商品等コードを調整することが大切です。弁理士など専門家と相談しながら慎重に進めることで、限られたリソースで最大の権利を得ることが可能になります。
商品区分一覧が全てではない
商標出願の際には、特許庁が公表している「商品・役務名リスト」(いわゆる審査基準例示リスト)から選ぶことが基本とされています。これは出願をスムーズに進めるための便利なリストであり、多くの企業や出願人がこの中から適切な項目を選んで商標の範囲を定めています。
しかし、近年のビジネスの多様化や技術革新に伴い、このリストに載っていない新しい商品やサービスが次々と生まれています。たとえば、NFT関連商品やメタバース空間での役務などは、従来の分類にはなかったものです。そのような場合でも、実は特許庁に対して適切な説明を行えば、オリジナルの商品・サービス名での出願が認められることがあります。
もちろん、自由に何でも記載できるというわけではありません。商標の目的は、他者との混同を防ぎ、事業上の信頼性を担保することにあるため、記載される商品・サービスも一定の明確性が求められます。そのため、自由記載を希望する場合は、商品・サービスの具体的な内容を正確に把握し、適切な表現に落とし込む必要があります。
このような場合には、弁理士など専門家に相談することを強くおすすめします。独自の商品・サービスでも、正確な記述と説得力のある説明があれば、出願が受理され、将来的な権利化につながる可能性が高まります。
出願手数料や登録手数料は区分数に比例する
商標出願の費用を考える際には、「商品等コードの数」だけでなく、「区分数」にも注意が必要です。ここでいう区分とは、国際分類に基づいた45のカテゴリーのことを指し、商品やサービスの種類によって分類されます。たとえば、衣類は第25類、飲食サービスは第43類、ソフトウェアは第9類というように、事業内容によって分類が異なります。
商標出願の手数料や登録後に必要な維持費用は、この「区分数」に比例して決まります。つまり、たとえば2区分で出願すれば、1区分の2倍の費用がかかります。これは、商品等コードが何個であっても変わりません。
したがって、コストを抑えたいと考える場合は、区分数をできるだけ少なくし、1区分内で商品等コードを最大限活用するという視点が重要になります。もちろん、必要な区分を削ることで将来的なビジネスチャンスを逃してしまっては本末転倒ですが、費用対効果のバランスを見極めながら戦略的に設定することが求められます。
弁理士と相談しながら、必要最低限の区分に抑えることで、コストを抑えつつ実質的に広い保護を受けることが可能になります。
区分数を厳選しながら商品等コードは22個埋める
商標出願では、費用を抑えつつ広い範囲を保護することが理想的です。そのための実践的な戦略として、「区分数は絞りつつ、商品等コードは最大の22個まで埋める」という方針が非常に有効です。これは、コストの決定に関わるのはあくまで「区分数」であること、そして商品等コードによって実質的な保護の範囲が決まることに着目した方法です。
たとえば、1区分内に属する商品等コードを徹底的に選び抜き、ビジネスに必要な商品やサービスを網羅することで、費用を最小限に抑えながら、実質的にはかなり広い範囲で商標権を得ることができます。これは中小企業やスタートアップなど、限られた予算内で最大の効果を出したい場合に特に有効です。
ただし、22個という上限は厳格であるため、商品等コードを無計画に選んでしまうと、あとで必要な項目を追加できない事態にもなりかねません。したがって、ビジネス上の必要性をよく考え、どのコードが本当に必要なのかを見極める作業が不可欠です。
この戦略は、事業内容の分析力と分類知識の両方が求められるため、専門家との協議を重ねながら進めることをおすすめします。事前にしっかりと準備をすることで、少ない費用で最大の権利範囲を得ることが可能になります。
生成AIの活用と注意点
近年、ChatGPTなどの生成AIが広く利用されるようになり、商標出願の準備にも応用されています。商品・サービスの検討においても、AIにより候補をリストアップしたり、分類の目安を提示してもらったりすることで、業務効率が大幅に向上しています。特に、広範囲な商品・サービス候補の初期案を出す段階では非常に有効です。
しかし、AIを活用する際にはいくつかの注意点もあります。AIはあくまで過去のデータに基づいて文章や分類を生成するため、誤った分類を提案することがあります。また、存在しない商品や誤解を招くような表現が含まれることもあります。たとえば、実際には使用されていない商品等コードや、曖昧な商品名が挙げられてしまうケースも少なくありません。
また、AIの知識が古い場合、最新の分類変更や審査運用に対応していない可能性もあります。これらを鵜呑みにして出願してしまうと、特許庁からの指摘や補正指令が発生し、かえって手間やコストが増えてしまうこともあるのです。
そのため、生成AIはあくまで「補助ツール」として活用し、最終的な確認や判断は必ず人間が行う必要があります。とくに弁理士などの専門家によるチェックは不可欠です。AIの力を借りつつ、人間の目で精査することで、効率と正確さを両立することができるでしょう。
先行商標を調査しこれを回避するか判断する
商標出願において忘れてはならないのが「先行商標の調査」です。指定した商品・サービスについて、すでに他者が同一または類似の商標を取得している場合、出願が拒絶される可能性が非常に高くなります。これは、特許庁が混同の恐れがあるとして「拒絶理由通知」を出すためで、対応には時間と費用がかかります。
特に注意が必要なのは、必要性の低い商品やサービスにおいて先行商標と被っているケースです。このような場合は、あえてその商品・サービスを指定から外すという判断も一つの有効な戦略です。無理に広い範囲を取ろうとすると、結局審査が長引き、全体の出願に支障をきたす可能性があります。
先行商標の調査には、J-PlatPatなどの無料データベースを活用することができます。ただし、調査には分類や同一性・類似性の判断といった専門的な知識が求められるため、正確な判断を行うには弁理士のサポートが有効です。
特許庁の審査は厳密かつ形式的に行われるため、「なんとなく違うから大丈夫」と思っても実際には拒絶されることも多くあります。だからこそ、出願前に十分な先行商標調査を行い、どこまでを保護対象とするか、どこを回避すべきかを冷静に判断することが求められます。
ビジネスの将来像を描く
商標出願において最も重要なのは、「自社のビジネスが今後どう発展していくか」という将来像を明確に描くことです。商標権は一度登録されれば最大10年間(更新可能)にわたり効力を持つため、現時点での事業内容だけでなく、今後展開する可能性のある分野まで視野に入れて商品・サービスを設定する必要があります。
たとえば、現在はアパレル事業を行っていても、将来的に化粧品や雑貨の販売、ECサイト運営へと事業を拡大する可能性があるなら、それらのサービスについても商標の範囲に含めることを検討すべきです。ただし、将来の構想が曖昧であれば、不要な範囲を広げすぎてしまい、出願や維持に無駄なコストが発生するリスクもあります。
このため、将来の事業計画やビジョンを具体的に言語化し、そこに必要な商品やサービスを結びつける作業が求められます。役員や関係者とのミーティングを通じて、中長期的な展望を共有することが重要です。
また、商標はブランディングの柱でもあります。どのようなブランド価値を築き、どの領域でその価値を発揮していきたいのかを明確にし、その軸に沿った商品・サービスの設定を行うことで、戦略的な商標出願につながります。
自社ビジネスに必要な商品・サービスを22個選び出す
前章で描いた将来像を基に、いよいよ実際に商標出願における商品等コードを22個選び出す段階に入ります。この作業は、商標の保護範囲を確定する最も重要なステップであり、慎重かつ戦略的に行う必要があります。
まずは、自社の事業内容と将来計画を照らし合わせながら、どの区分に属する商品・サービスが本当に必要なのかを精査します。そのうえで、できるだけ少ない区分に収めるように工夫しながら、商品等コードを埋めていきます。無理に広い範囲をカバーしようとするのではなく、「自社のブランドにとって何を守るべきか」という視点で選定することが重要です。
商品等コードの選定に際しては、特許庁のデータベースを使って検索を行い、該当コードを確認することができます。必要であれば、弁理士に相談しながら、より適切な記載方法を検討することも有効です。
最後に、22個のコードが決まったら、それぞれのコード内にどのような商品名・サービス名を含めるかを整理して、出願書類を作成します。
このようにして選び抜いた22個のコードは、今後のビジネスを支える強力な知的財産として機能します。自社にとって本当に必要な権利を、無駄なく、確実に取得するための最後の一手です。
当事務所の取り組み
商標出願は早い者勝ちであるため、出来る限り早く出願するにこしたことはありません。そのため近時、生成AIなどを用いて商品・サービスの設定を自動化し、AIの提案内容そのままで素早く出願しようという動きも強まっています。しかし、ビジネスに活用できない権利を取得しても仕方ありません。当事務所では、お客様がどのようなビジネスを展開しようとしているかを詳細にお聞きした上で、そのビジネスの将来像を描き、ビジネスを将来にわたって円滑に展開できるよう商品・サービスの範囲を手作業で短期間集中で徹底的に厳選いたします。商標をとってみたいとお考えでしたら、アイディア段階でも結構ですので、お気軽に当事務所にご相談ください。