【相談事例】商標出願にあたり指定商品をどのように決めればよいですか

相談者(40代男性)

弊社は、様々な食品を製造・販売しています。また、地域の子供たちに食に関する体験イベントなどの企画も行っています。この度、自社のプライベートブランドとして商標権を取得しようと考えているのですが、指定商品・役務をどのように決めて行けばよいかと悩んでいます。費用負担の面も含めてわかりやすく教えていただけるとありがたいです。

回答者:弁理士

商標は区分数に応じて費用が異なりますので、まずはどの区分に出願するかを決める必要があります。御社の業務内容だと、食品はもちろん、体験イベントなどの企画が別区分にありますのでそこまで出願するか検討が必要です。出願する区分が決まれば、その中で22個までは類似群コード単位で出願する内容を選ぶことができます。これは多くても費用に影響はないため、将来利用する可能性も想定してできる限り広くとっておくべきです

特許庁の手数料は、区分数に比例して増加する

商標出願を検討する際にまず理解しておきたいのは、特許庁に支払う手数料の仕組みです。商標は「区分」と呼ばれるカテゴリーごとに出願する必要があり、この区分数に応じて特許庁へ支払う出願費用と登録費用が増加します。区分は45に分類されており、食品、衣類、機械、広告、教育サービスといったように、多様な分野に細かく分類されています。出願時にはこの区分ごとに費用が加算され、1区分増加するごとにおよそ3万円程度の追加費用が発生します。このため、どの区分を選択するかは出願段階で最も重要な判断ポイントとなります。
大企業は事業規模が大きく、将来的な事業展開の幅も広いため、必要と思われる区分はすべて出願するのが一般的です。たとえば食品メーカーであれば食品関連の区分だけでなく、関連するイベントや広告に関わる区分もまとめて押さえることが多く、コストよりも権利範囲の広さを優先する発想が基本です。一方で、中小企業の場合は商標の必要性を理解しつつも、予算の都合から必要区分を絞り込むことが求められるケースが少なくありません。特に新規事業を展開する企業では、最初の段階では事業の中心となる区分だけを出願し、後の状況に応じて追加出願を検討するという方針をとることもあります。
とはいえ、費用が増減するのは区分数のみであり、その区分内にどれだけの商品・役務を指定するかによって費用が変わることはありません。つまり、まず重要なのは「どの区分に出すか」を判断し、適切な区分を選択することです。事業内容を整理し、自社の事業がどの区分に該当するかを正確に見極めることで、余計な費用をかけずに効果的な権利取得を行うことができます。また、区分の選択を誤ると、せっかく取得した商標が自社の事業に十分活用できない可能性もあります。このため、出願の第一段階として、区分選びは慎重に進めていく必要があります。

類似群コードは22個まで出せる

出願する区分が決まった後は、具体的にどの商品・役務を指定するかを決めていく作業に進みます。商標出願では、区分の中でどの商品や役務に商標を使うのかを細かく指定しますが、この指定は「類似群コード」という分類を基準に行われます。類似群コードとは、特許庁が商品・役務を細分化し、商標の類否判断をするために用いる分類コードで、同じ類似群コードに属する商品・役務は、通常、類似するものとして扱われます。
商標出願では、この類似群コードを最大22個まで指定することができ、それ以上を選択することは許されていません。重要なのは、類似群コードを増やしても費用は増加しないという点です。費用は区分の数に比例して増えるだけであり、同一区分内で類似群コードをどれだけ選んでも追加費用はかかりません。したがって、現在使用している商品・役務だけでなく、将来使用する可能性のある分野も一緒に押さえておくことが非常に重要です
ただし、ここで注意しなければならないのが、先行商標との関係です。類似群コードが同じということは、特許庁において「類似する商品・役務」と判断されることを意味します。そのため、同じ類似群コードに既存の類似商標が登録されている場合、拒絶理由通知を受ける可能性が高まります。このため、事前に先行商標を検索し、競合する可能性のある範囲を避けて商品・役務を選ぶことが欠かせません。
商標調査は出願準備の中でも重要なステップであり、調査が十分でないまま出願すると、拒絶理由への対応に時間とコストを要したり、結局権利を取得できなかったりする事態も起こり得ます。したがって、類似群コードを広く取得しながらも、先行商標を避ける形でバランスよく指定することが求められます。将来の事業展開を見据えて最大限の選択肢を確保しつつ、拒絶を回避するという判断が重要となります。

食品だけでなくイベントも

相談事例の商標出願においては、商品そのものの区分だけでなく、関連するサービスまで視野を広げて区分選択を行う必要があります。食品を製造するだけでなく、食に関する体験型イベントも展開しているのであれば、商標の使用範囲も製造業だけにとどまりません。製造販売する食品の区分に加え、体験イベントや講座、交流会の企画・運営に関する区分も押さえておくことが望ましいといえます。
食品に関する区分は種類が非常に多く、同じ食品であっても加工方法や用途によって別の区分になることもあります。したがって、食品関連の出願では、先行商標の存在を丁寧に確認し、競合が多い分野を避けつつ、自社の事業に必要な範囲を確保する柔軟な姿勢が求められます。特に食品は需要が広く、他社の出願も多いため、類似商標に抵触しないよう慎重な選定が必要です。
一方で、イベント企画に関する区分は、中核事業に比べると予算の制約がある企業では後回しにされることがあります。しかし、食に関する体験型イベントは今後さらに需要が高まる分野であり、ビジネスとしての広がりも期待されます。したがって、予算上の制限がある場合でも、できる限りイベント企画の区分を取得しておくことが望ましいといえます。商標を広く取得しておくことで、将来的な事業展開の際に十分な権利範囲を確保でき、他社に商標使用を妨げられるリスクも低くなります。
食品とイベントという異なる事業領域をまたぐ場合、商標の指定商品・役務は多岐にわたり、漏れや重複が発生しやすくなります。出願の段階で事業内容を丁寧に整理し、食品の製造販売に該当する区分と、イベント企画に関わる区分をそれぞれ明確に見極めることが重要です。どちらの事業も商標の保護範囲に含めておくことで、ブランドを統一的に管理でき、企業のイメージ戦略にも一貫性を持たせることができます。

将来のビジネスを想定する

商標出願においては、現在行っている事業だけを前提に商品・役務を選定してしまうと、後々不便が生じることがあります。類似群コードは22個まで選択できますが、その範囲内であれば、将来的に事業拡大する可能性のある分野まであわせて出願しておくことが極めて有効です。商標は一度出願して登録されれば長期間権利を維持できますが、後から新たな商品・役務を追加したいと思っても、追加出願は別の手続として扱われ、取得までに時間がかかるだけでなく、すでに競合他社が類似の商標を登録している場合には権利取得自体が難しくなる可能性があります。
食品を扱う企業であれば、現在製造販売している商品だけでなく、その周辺の分野における商品もできる限り広く指定することが望まれます。例えば、菓子を製造している企業であれば、将来的に飲料や調味料、健康食品などに事業が広がる可能性があります。現在は製造していないとしても、関連性のある食品を類似群コードの上限まで入れておくことで、商標の保護範囲を広げ、事業拡大の妨げとなるリスクを軽減できます。
イベント企画についても同様で、現在提供しているイベントの種類だけでなく、今後展開する可能性のある体験型イベントや講座、研修、オンライン配信など、幅広いサービスを視野に入れて指定することが重要です。サービスの種類は多種多様であり、商標制度上も複数の区分にまたがる場合があります。将来の方向性を見据え、可能性のある分野をできる限り押さえておくことが賢明です。
追加出願にはコストと時間がかかるため、出願時点での判断が商標戦略を大きく左右します。将来のビジネスを広く想定し、区分内の類似群コードを上限まで活用することが、長期的に見て最も効率の良い商標取得の方法です。出願段階での準備と検討が、後々の事業展開をスムーズにし、他社との競争を有利に進めるための鍵となります。

こんな商標の活用法も

商標を広い範囲で取得しておくことは、自社の事業に使用するためだけに役立つものではありません。商標には、使用権を他者に許諾するという活用法もあり、広い範囲で取得しているほどその活用の幅が広がります。将来、他社が同じ商標を使いたいと希望した場合、商標権者はライセンス契約を締結し、ロイヤリティ収入を得ることができます。これは、商標を広く押さえておくことの副次的なメリットであり、企業にとって新たな収益源となる可能性があります。
さらに、自社だけでは実施が難しいイベント企画などを、他社との協働で実施する際にも商標は重要な役割を果たします。自社が商標権を広く保持していることで、イベントの名称やブランドを一貫して使用でき、企画全体の統一感を維持することができます。また、商標の使用条件を明確に設定することで、他社との協働におけるトラブルも未然に防ぐことができます。
商標の活用はライセンスや協働企画だけにとどまりません。広範囲に商標を取得しておくことで、市場における他社の活動を一定程度コントロールすることもできます。たとえば、商標が広い範囲で保護されている場合、他社は類似のブランド名を利用しづらくなり、自社のブランド価値を守る盾として機能します。このように、商標は単なる名称の保護にとどまらず、事業戦略全体に深く関わる重要な資産となります。
広い範囲での出願は、一見するとコストがかかるように思われますが、区分数を増やさない限り費用は変わらないという制度の特性を踏まえると、むしろ将来のリスクヘッジとして有効な投資であると言えます。商標権を戦略的に活用することで、企業のビジネスチャンスは大きく広がり、新たな協業やライセンス収入の可能性も生まれます。このため、商標の出願段階で広い視野を持って指定商品・役務を検討することが極めて重要となります。

まとめ

商標出願における指定商品・役務の選び方は、単なる事務手続きではなく、企業の将来の事業展開を左右する重要な戦略的判断です。まず、特許庁の手数料が区分数に比例して増加するため、どの区分に出願すべきかを正確に見極めることが最初のステップとなります。そのうえで、類似群コードを最大22個まで選択できる制度を活用し、現在使用している商品・役務のみならず、将来使用する可能性のある範囲まで広く押さえておくことが重要です。
また、食品などの具体的な商品に限らず、体験イベントや講座といったサービスを提供している企業の場合は、製造販売に関わる区分のみならず、イベント企画の区分も押さえておく必要があります。事業の幅が広がるほど、商標の指定範囲が重視されるため、出願段階での検討が将来のビジネスに直結します。
商標を広く取得しておくことは、自社の事業のためだけでなく、ライセンス契約や他社との協働事業といった多様な活用法につながります。商標は企業の大切な無形資産であり、その保護範囲を広げることでビジネスの幅を大きく広げることができます。
商標出願は一度行えば長期的に権利を維持できる一方、後から追加出願をするには時間と手間がかかります。したがって、出願段階で将来を見据えた十分な検討を行い、可能な限り広い範囲で権利を確保することが肝要です。企業の成長に合わせて商標が足かせにならないよう、適切な指定商品・役務の選定を行うことが成功への鍵となります。
商標出願に関するお困りごとがありましたら、ぜひお気軽に当センターにご相談ください。

 

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