【相談事例】有名な名称に手を加えた商標を出願したいのですが可能でしょうか

相談者(20代男性)

大好きなゲーム名があります。そのゲーム名自体は商標をとることはできないのだと思いますが、自分なりに少しもじって良い感じの別の名称を思いつきました。この名称を商標出願したいのですが、何か法律上問題がありますでしょうか。

回答者:弁理士

少し手を加えた程度では、全体として元のゲーム名と類似すると評価されて商標出願が拒絶される可能性があります。また、仮に商標出願が認められても当該ゲーム名が有名な作品であれば不正競争防止法に該当する可能性がありますし、ゲームの図柄などを修正したマークは著作権侵害を指摘される可能性があります。複数の法律に抵触するおそれがあるため、知的財産法に詳しい弁護士の事前チェックを受けることをお勧めいたします。

パロディは危険

有名な名称や作品をそのまま商標として出願すれば認められない、ということは多くの方が理解しています。しかし、少し手を加えれば自分の独自性が加わるから問題ない、と考えている方は少なくありません。例えば、有名ブランド名の一部を変えたり、語尾を変えたり、図柄の一部をデフォルメしたような出願を見かけますが、これは非常にリスクの高い行為です。
特に注意すべきは「パロディ」と呼ばれる行為です。パロディは笑いや風刺の目的で著名な要素を改変して使用するものですが、知的財産の観点から見ると、法的な保護を受ける対象を改変・利用しているに過ぎません。たとえ自分が「これはユーモアであり、批評の一環だ」と思っていても、それが法律的に許されるかどうかは別の問題です。
パロディは商標法に限らず、さまざまな法分野にまたがって問題を引き起こす可能性があります。具体的には、商標法における登録拒否だけでなく、他の法律による責任追及や、相手側からの損害賠償請求などにつながることもあります。したがって、パロディ商標の出願には、極めて慎重な判断が求められます。
今回の相談者は大好きなゲーム名に少し手を加えて自分オリジナルの名称を商標登録したいようですが、その問題点を順に説明します・

類否判断のポイント

商標が登録できるかどうかの1つのポイントとして、すでに登録されている先行商標との「類似性」があります。これは、最高裁判所の判例により、以下の三つの要素を総合的に比較して判断されることが確立しています。それが「称呼(呼び方)」「観念(意味)」「外観(見た目)」の三要素です。
例えば、称呼が「エックス」となる商標がすでに登録されていた場合、仮に表記が「EX」や「X」など異なっていたとしても、呼び方が同じであれば類似と判断される可能性があります。また、観念として「太陽」や「星」などの共通の意味を持っている場合も、違う単語であっても同一・類似とされることがあります。さらに、外観が非常に似ている、つまり文字の形状やロゴの構成が似ている場合も問題となります。
このように、出願者が「少し変えている」と思っても、称呼・観念・外観のいずれか、あるいは複数において先行商標と近ければ、登録が拒絶される可能性があります。判断は専門的な知見を要するため、出願前に専門家の助言を受けることが重要です。

類似していても異なる商品・サービス分野であれば権利をとれるケースもある

商標の保護範囲は、基本的にその商標が登録されている「商品やサービスの区分(類似群)」に限定されます。つまり、先に登録されている商標と同じ名前であっても、まったく異なる分野の商品やサービスで使用するのであれば、商標登録が認められる可能性があります。
たとえば、先に「オーロラ」という名称が化粧品に登録されていたとしても、それと無関係な建設業のサービス名称として使う場合には登録が可能となるケースがあります。これは、商標の登録審査が「需要者の混同」を防ぐことを目的としているためです。異なる分野では混同の恐れが小さいとされ、登録が認められることがあります。
ただし、著名な名称に乗っっかったもので特定人に独占を認めるべきでない名称は特許庁も様々な理由で出願を拒絶するケースが多いです。したがって、自分が狙っている分野で本当に登録が可能かどうか、専門家と相談しながら事前調査を行うことが推奨されます。

異議申し立てのリスク

仮に審査を通過して商標登録が認められたとしても、それで安心というわけではありません。登録後に、第三者から異議申し立てがなされる可能性があるからです。特に、著名な名称に近い商標であった場合、登録商標が他社のビジネスに悪影響を与えると判断されると、積極的に異議を唱えられるケースが少なくありません。
異議申し立ては、登録公告から2か月以内であれば誰でも行うことができます。相手方が異議を申し立てれば、特許庁で再度の審査が行われ、最悪の場合、登録が取り消されることになります。また、取り消されずとも、使用することで訴訟に発展したり、損害賠償を請求されたりする可能性もあります。
さらに、著名企業は自社ブランドの価値を守るために、法務部門や弁護士チームを通じて徹底した監視を行っています。登録できたからといって安泰とはいえず、むしろ係争リスクや商標維持のための対応コストが高くつく可能性があります。商標は「取ったもの勝ち」ではないことを十分に認識しておく必要があります。

不正競争防止法違反のおそれ

商標法で登録が認められたとしても、それが自動的にすべての法律上問題がないことを意味するわけではありません。特に注意すべきなのが「不正競争防止法」です。この法律は、他人の事業活動を不当に妨害したり、信用を乗っ取ったりするような行為を規制するものです。
例えば、あまりにも著名な企業の名称に酷似した商標を使って、消費者に「あの企業の関連かもしれない」と思わせるような行為は、「周知表示混同惹起行為」として不正競争防止法違反に該当するおそれがあります。これは商標権を持っているかどうかにかかわらず、民事上の責任が問われる可能性があります。
また、著名ブランドへの「ただ乗り」や「イメージの便乗」なども、「信用の毀損」や「利益の不当取得」として問題になる場合があります。つまり、商標法上はセーフでも、他の法律に基づいて訴えられるリスクが残るわけです。商標の取得だけに目を向けず、広く法的な観点から事前にリスク評価を行う必要があります。

著作権法違反のおそれ

有名な図柄やキャラクターに少しだけ手を加えて、オリジナルのように見せたマークを使用する場合、それが著作権法に違反する可能性があることにも注意が必要です。著作権は、創作的な表現そのものを保護する法律であり、たとえ一部改変したとしても「依拠性」と「類似性」が認められれば、著作権侵害となる場合があります。
特に問題となるのは、原作と酷似した外観を持つキャラクターやロゴマークです。著作物の本質的な特徴を取り入れていれば、それが一部改変されたものであっても、元の著作権者の権利を侵害していると判断される可能性があります。しかも、著作権は登録制度ではないため、相手が登録していなくても権利は自然に発生し保護される点に注意しなければなりません。
また、企業や団体のロゴマークは、デザインとして非常に強い識別力を持っており、消費者に誤認を与えるような使用をすれば、信用毀損や混同のおそれとして訴訟に発展することもありえます。よって、「似せて使えば売れる」という安易な発想は極めて危険です。

少し手を加えればよい・・わけではない

日本には古くからパロディ文化が根づいており、替え歌や同人誌、漫画のパロディなどが一定の人気を集めてきました。しかし、これらの表現活動も、公に公開した時点で著作権侵害や不正競争防止法違反と判断されるリスクがあります。
「少し変えているから大丈夫」と考えても、それは法律上の安全性を意味するものではありません。むしろ、著名な名称や図柄に手を加えて使う場合、それが元ネタであることが容易に想像できるほどに似ていれば、元の権利者の経済的利益を侵害していると見なされる可能性が高くなります。
さらに、商標法では許容されたとしても、不正競争防止法や著作権法では規制の対象となることもあるため、「商標が取れたから安心」という誤解は禁物です。特に企業活動において、訴訟リスクや信用失墜といった不利益を被るリスクは避けるべきです。
そのため、パロディ商標や類似商標の出願・使用を検討している場合には、必ず事前に知的財産法に詳しい弁護士に相談することを強くおすすめします。

まとめ

有名な名称や図柄に手を加えて商標出願を行うという行為は、一見独創的に見えても、数多くの法的リスクを伴います。商標法の類否判断に加え、登録後の異議申し立て、不正競争防止法や著作権法との抵触といった様々な要素を慎重に検討しなければなりません。
「少し変えれば問題ない」という思い込みは危険であり、それが多くの法律に触れる可能性があることを忘れてはなりません。特に著名な名称やブランドを模倣するような形での出願や使用は、相手企業の強い反発を招くだけでなく、自社の信頼や法的立場を危うくする結果につながりかねません。
商標の活用には、アイデアと同時に法的な安全性の確保が必要不可欠です。疑問があれば、必ず専門家に相談するよう心がけましょう。
当センターでは知的財産権の取り扱い経験豊富な弁護士・弁理士がこうしたトラブルを未然に防止するための対策を広い視点で行っております。また、著名表示を冒用された側の対策にもフットワーク軽く対応しております。下記よりお気軽にご相談ください。

 

 

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