【相談事例】特許侵害訴訟は大企業のように多くのメンバーで構成しなければ勝てないでしょうか

相談者(60代男性)

社運をかけた特許侵害訴訟を提起しようと考えています。訴額は3億円の予定です。知財高裁の判例を検索していると、日本を代表する大企業は10名以上の弁護士が代理人に名を連ねてチームを編成しています。わが社はそれほど大きくなく、予算にも限界がありますが、大企業のように大きな事務訴に依頼して大メンバーで構成した方がよいでしょうか。

回答者:弁理士

特許侵害訴訟は訴額が大きくなるため慎重に進める必要があり、やるべきことも多いので人手はあった方がよいのですが、それよりも大事なのは事件処理方針の共有で、各自がバラバラに活動しては意思決定がまとまらず、対応が後手後手になってしまうこともあります。知的財産業界で評価の高い事務所ではベテラン弁護士とアシスタント弁護士の2名体制で進めることが多く、個人的にはこのようにメンバーを厳選した方が事件処理を進めやすいと思います。

大型特許訴訟は慎重に進めるべきではあるが

社運をかけた大型の特許侵害訴訟に直面したとき、企業の経営陣は是が非でも勝ちたいと考えます。自社の主力製品が侵害と判断されれば市場からの撤退を余儀なくされる可能性があり、逆に自社特許が侵害されている場合には競争優位を守れるかどうかがかかっています。その意味で、特許訴訟は単なる法的紛争ではなく、企業戦略そのものと直結する重大事です。
このような大型事件では、処理すべき業務量も膨大になります。技術資料の精査、製品構造の確認、先行技術の調査、証拠収集、準備書面の作成、社内外との調整など、日々の業務は多岐にわたります。加えて、経営層への報告や広報対応なども必要になる場合があります。こうした状況に直面すると、どうしても「とにかく人手を増やそう」という発想に傾きがちです。
実際、日本を代表する大企業が大型特許訴訟に臨む際には、社内の法務部、知財部、技術部門から多数のメンバーを動員し、さらに外部の法律事務所からも複数の弁護士を起用することが少なくありません。一見すると盤石の布陣のように見えます。しかし、人数を増やせば増やすほど、意思疎通や方針決定が複雑になり、かえって機動力が落ちるという現象が起こり得ます。
大人数のチームは安心感をもたらしますが、必ずしも成果に直結するわけではありません。責任の所在が曖昧になり、議論が拡散し、結論が先送りされることもあります。特許訴訟のように高度な専門性と迅速な判断が求められる分野では、このような弊害は致命的になりかねません。
そこで本稿では、大型特許訴訟においてはむしろメンバーを厳選した方がうまくいく理由について、具体的な観点から検討していきます。

3つの論点と訴訟・審判

特許侵害訴訟には、大きく分けて三つの論点があります。第一に構成要件該当性、第二に特許の有効性、第三に損害論です。いずれも専門性が高く、しかも相互に影響し合うため、全体像を的確に把握することが不可欠です。
まず構成要件該当性とは、被疑侵害製品や方法が特許請求の範囲に記載された各構成要件を充足しているかどうかを検討するものです。文言侵害か、均等侵害か、クレーム解釈をどう行うかなど、緻密な分析が求められます。この段階で原告が十分な主張立証を行えば、被告は次に特許無効の主張を展開するのが通常です。
無効論では、進歩性欠如や新規性欠如、サポート要件違反などが争点となります。そして特許が有効であると判断された場合には、最終的に損害額の算定に進みます。逸失利益、実施料相当額、推定規定の適用など、ここでも専門的な議論が展開されます。
さらに重要なのは、特許の有効性は裁判所だけでなく、特許庁における無効審判でも同時並行で争われることが多いという点です。無効審判の審決が出れば、訴訟に影響を及ぼしますし、審決取消訴訟が提起されれば、さらに審理は長期化します。訴訟と審判が複雑に絡み合うため、手続対応だけでも相当な労力が必要になります。
このように、特許侵害訴訟は単線的な争いではなく、複数の論点と複数の手続が同時進行する立体的な紛争です。証拠管理、主張整理、スケジュール調整など、処理すべき業務量は膨大であり、各論点を担当するメンバー間の連携も欠かせません。人数を増やせば一見分業が進むように思えますが、論点相互の整合性を保つ難易度も比例して高まります。

事件処理方針の共有が何より大事

特許侵害訴訟では、やるべきことが山積しています。しかし、どれほど優秀な人材を集めても、各自がばらばらに作業を進めていては勝訴は困難です。何より重要なのは、事件処理方針の明確化とその徹底した共有です。
例えば、構成要件該当性で徹底的に争うのか、無効論を主戦場とするのか、あるいは和解を視野に入れつつ損害論を重視するのかによって、証拠収集や主張の組み立て方は大きく異なります。方針が曖昧なままでは、あるメンバーはクレーム解釈に力を注ぎ、別のメンバーは先行技術調査に膨大な時間を割くといったように、リソース配分が分散してしまいます。
一貫したストーリーを構築することも重要です。裁判所に対して説得的な主張を行うためには、構成要件該当性の議論と無効論、さらには損害論までが有機的に結びついている必要があります。ところが、メンバーが多くなればなるほど、情報共有の手間が増え、認識のずれが生じやすくなります。
会議の回数が増え、資料も増えますが、それが必ずしも理解の深化につながるとは限りません。むしろ、誰が最終的に方針を決めるのかが不明確になり、結論が先送りされる危険があります。特許訴訟ではタイミングを逃すことが致命傷になる場合もあり、迅速な意思決定が不可欠です
その意味で、少数精鋭のチームは方針共有の面で大きな強みを持ちます。中心となる数名が常に同じテーブルで議論し、同じ情報に基づいて判断を下す体制は、主張の一貫性と機動力を高めます。メンバーを厳選することは、単なる人員削減ではなく、戦略の統一を実現するための重要な選択なのです。

船頭多くして船山に登る

日本を代表する著名企業が大型特許訴訟に臨む際、著名な法律事務所の弁護士を多数代理人に並べる光景は珍しくありません。外形的には豪華な布陣であり、社内外に対するメッセージとしても強い印象を与えます。しかし、実際の訴訟運営においては、必ずしもそれが最善とは限りません。
判例を精査すると、無効審判の提起が遅れた結果、訴訟戦略に不利な影響を与えたと評価できる事例も見受けられます。これは個々の弁護士の能力の問題というよりも、意思決定プロセスの複雑化に起因することが多いと考えられます。関与者が多いほど、全員の合意形成に時間がかかり、責任の所在も曖昧になりがちです。
一方、知的財産分野で高く評価されているのは、ブティック型の事務所を経営し、所属弁護士の人数を厳選しているケースが少なくありません。こうした事務所では、専門性の高い弁護士が中心となり、迅速かつ一貫した判断を下します。情報の流れもシンプルで、無駄な調整に時間を取られることが少ない傾向があります。
弁護士が多いこと自体が安心材料になる場合もありますが、知的財産訴訟では専門性の高さと戦略的一貫性が何より重要です。多数の弁護士がそれぞれの見解を持ち込めば、議論は活発になりますが、その分、方向性の統一は難しくなります。特に無効論の構築やクレーム解釈の方針決定では、微妙なニュアンスの違いが大きな結果の差につながります。
結果を出しているケースを見ると、知的財産の専門性が高い弁護士を中心に、役割を明確に分担した少数精鋭の体制が採られていることが多いです。人数を誇るのではなく、質と統率を重視する姿勢が、最終的な勝敗を左右する重要な要素となっています。

バディ制度

多くの法律事務所では、弁護士の育成のためにバディ制度を採用しています。すなわち、ベテラン弁護士と若手弁護士がペアを組み、事件を共同で担当する仕組みです。知的財産訴訟においても、主担当のベテラン弁護士とアシスタント弁護士の二名体制で対応するケースが一般的です。
この体制の利点は明確です。ベテランが戦略的判断を担い、若手が調査や資料作成を支えることで、質と効率の両立が図られます。意思決定のラインも明確であり、外部との交渉窓口も一本化しやすくなります。結果として、訴訟全体の運営が安定します。
企業側も同様です。法務部、知財部、技術部門から何人もメンバーを出すと、一見すると万全の体制に思えますが、実際には意見の集約に時間がかかるだけでなく、最終的な責任の所在が曖昧になる危険があります。特許訴訟では、技術的理解と法的判断を結び付ける作業が不可欠であり、その橋渡し役が明確でなければなりません。
理想的には、法務部と技術部門それぞれで主任とそのアシスタントの二名体制、合計四名程度まで厳選するのが望ましいといえます。この程度の人数であれば、迅速な意思決定と十分な検討のバランスを保ちやすくなります。各部門内での事前の意見交換を徹底しておけば、対外的な議論もスムーズに進みます。
重要なのは、人数を絞る代わりに、日頃から部門内で情報共有と議論を積み重ねておくことです。平素から技術と法務の対話を深めていれば、いざ訴訟となった際にも、限られたメンバーで的確な判断を下すことが可能になります。バディ制度の発想を企業側にも応用することが、特許訴訟を成功に導く鍵となります。

まとめ

特許訴訟は企業の命運を左右する重大な戦いです。だからこそ、つい大人数のチームを編成し、万全の体制を敷きたくなります。しかし、特許侵害訴訟は構成要件該当性、無効論、損害論という複数の高度な論点が絡み合い、さらに訴訟と審判が同時並行で進む複雑な手続です。このような環境では、単に人数を増やすことが最適解とは限りません。
むしろ重要なのは、明確な事件処理方針を定め、それをチーム全体で共有し続けることです。メンバーが多すぎると、方針の共有が難しくなり、意思決定が遅れ、主張の一貫性が損なわれるおそれがあります。責任の所在が曖昧になれば、迅速な対応が求められる局面で機動力を失います。
知的財産分野で実績を上げている事務所の多くは、専門性の高い弁護士を中心とした少数精鋭体制を採っています。企業側もこれに呼応し、法務と技術の中核メンバーを厳選することが望ましいです。バディ制度のように、役割を明確にしつつ緊密に連携できる体制は、質の高い判断と迅速な行動を可能にします。
特許訴訟で求められるのは、人数の多さではなく、戦略の統一と専門性の深さです。厳選されたメンバーが同じ方向を向き、責任を持って判断を下す体制こそが、複雑な知的財産紛争を乗り越える力となります。
当センターでは弁護士としても弁理士としても大型訴訟に従事経験があり、特許庁にも在籍した専門家が御社の特許訴訟を勝訴に導きます。下記よりお気軽にご相談ください。

 

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