相談者(30代女性)
私の会社で「マニキュアさん」という商標出願をしたところ、3条1項6号に基づく拒絶理由通知を受けました。もちろん、マニキュアに「マニキュアさん」という商標は取れないことは承知しており、当社では女性向けのアクセサリーや雑貨についてこの商品名で売りこんでいきたいと考えています。何とかして商標登録できないでしょうか
回答者:弁理士
3条1項6号の拒絶理由通知対策は一般的には反論一択となることが多いです。まずは拒絶理由通知を丁寧に分析することが必要で、その後、他に「~さん」という商標登録がないか探してみることが有効です。その登録の傾向から反論の方針が見えてくることもあります。そして、おっしゃるとおり、マニキュア自体に使う表示ではないという観点は反論の中心に据えるべき事情だと考えます。これらの観点で集めた反論の題材を丁寧に組み立てることで、拒絶理由通知を突破する可能性が出てきます。
需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるか
商標出願に対する拒絶理由通知の中で最も多く見られるものは4条1項11号ですが、3条1項6号に基づく拒絶理由通知も決して少なくありません。3条1項6号は、商標が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない」場合、すなわち自他商品・役務識別力がないと判断される場合に適用されます。平易な言い方をすれば、「それが商標だと分からない」という評価です。
実務上、商標は覚えやすく、使いやすく、視認性の高いものが好まれるため、できる限りシンプルに構成される傾向があります。しかし、シンプルであることと識別力があることは同義ではありません。あまりに一般的な語句や、日常的に使われる表現、商品の内容や性質を直感的に想起させる程度の構成では、「単なる表示」に近いものと評価され、3条1項6号の問題が生じやすくなります。
また重要なのは、商標は出願後にその構成自体を変更することができないという点です。軽微な補正は可能でも、商標の要部を変えるような修正は認められません。そのため、3条1項6号による拒絶理由通知が出た場合、対応の中心は補正ではなく反論になります。つまり、「この商標は識別力を有している」と論理的に説明し、審査官の判断を覆す方向での対応が基本となります。
この条文は抽象的に見えますが、実際の判断は出願商標の構成、指定商品・役務との関係、社会における使用実態など、多くの要素を総合してなされます。したがって、形式的な主張だけでは不十分であり、具体的事情に即した説明が不可欠です。そこで本稿では、3条1項6号に基づく拒絶理由通知に対し、どのような視点で事実を整理し、どのように理屈を組み立てていくべきかについて、実務的観点から解説していきます。
まず何より拒絶理由通知の分析
拒絶理由通知への対応において最初に行うべきことは、何よりも通知内容の徹底的な分析です。3条1項6号に限らず、すべての拒絶理由通知に共通する基本姿勢ですが、特にこの条文では審査官の認定の根拠がどこにあるのかを丁寧に読み解くことが重要になります。
3条1項6号の拒絶理由通知では、辞書の記載、業界団体の説明、一般的な情報サイト、新聞記事、企業のウェブサイトなどが引用されることがよくあります。そこでは、出願商標と同一または類似の語句が、一般的な意味で使用されている事実が示され、「この語は広く用いられているため識別力がない」といった評価がなされます。しかし、引用された資料の内容をそのまま受け取るのではなく、その使われ方の具体性や文脈を細かく確認することが不可欠です。
たとえば、同じ語句でも専門分野に限って使われているのか、一般消費者向けの媒体でも広く使われているのかでは、需要者の認識は大きく異なります。また、説明的に使われているのか、商品名やサービス名として使われているのかによっても意味合いは変わります。審査官の引用が「説明文中の一部」に過ぎない場合、それをもって直ちに識別力がないとするのは早計な場合もあります。
さらに、どの指定商品・役務との関係で問題視されているのかを明確にする必要があります。同じ商標でも、ある商品に対しては説明的でも、別の商品や役務との関係では直接的な意味を持たないことがあります。拒絶理由通知の文面から、審査官がどの商品・役務を念頭に置いて判断しているのかを読み取り、その前提が妥当かどうかを検討することが求められます。
このように、拒絶理由通知の分析は単なる形式的作業ではなく、後の主張の土台となる極めて重要な工程です。引用資料の出典、使用態様、対象となる需要者層、指定商品・役務との関連性などを一つひとつ確認することで、反論の糸口が見えてきます。
他の類似商標の動向をチェックする
3条1項6号で問題となる商標は、商品や役務そのものを直接示すものではないものの、それに近い意味合いを連想させる語を少しアレンジした程度の構成であることが多く見られます。このような場合、当該商標が本当に「誰の商品・役務か分からない」ほど識別力を欠くのかは、実務上必ずしも一様ではありません。
そこで有効となるのが、同様の構成態様を有する他の商標の登録状況の確認です。特許情報プラットフォームなどを用いて、問題となっている語やそれに近い語を含む商標が、同種または類似の商品・役務について登録されていないかを調査します。単なる語の一致だけでなく、語の組み合わせ方、造語の程度、全体の印象なども含めて比較検討することが重要です。
もし、出願商標と同程度に説明的とも取れる構成の商標が登録されている場合、それは実務上「識別力が肯定された事例」として参考になります。もちろん、個々の事案は具体的事情により判断されるため、過去の登録例がそのまま本件にも当てはまるわけではありませんが、「この程度の構成であっても登録されている」という事実は、審査官の判断に対する説得材料となり得ます。
さらに有用なのは、そうした商標の登録経過の確認です。審査経過情報を参照することで、当該商標がどのような拒絶理由を受け、どのような反論がなされ、最終的に登録に至ったのかを知ることができる場合があります。そこには、審査官がどの点を重視し、どのような説明が評価されたのかが示されていることがあり、自身の事案に応用可能な視点を得ることができます。
他の商標の動向を調べる作業は手間がかかりますが、単に理屈を述べるだけでなく、「実際の登録実態に照らしても不自然ではない」という裏付けを持たせるうえで大きな意味を持ちます。抽象論に終始せず、具体的な登録例を踏まえて議論する姿勢が、3条1項6号の場面では特に有効です。
自社の商標の指定商品・役務を確認する
拒絶理由通知への対応を考える際には、出願商標の構成そのものだけでなく、指定商品・役務との関係を改めて丁寧に見直すことが欠かせません。3条1項6号の判断は、商標単体ではなく、「その商品・役務に使用された場合に」識別力があるかどうかという観点でなされるためです。
一見すると商品の内容を直接示すように見えるシンプルな語であっても、文字通りその商品に使用する場合と、全く別の分野の商品や役務に使用する場合とでは、需要者の受け止め方は大きく異なります。前者では説明的な表示と理解されやすくても、後者では必ずしも直ちに内容を示すものとは受け取られず、商標として機能する可能性があります。
そのため、まずは自社が実際にどのような商品・役務にその商標を使用するのかを具体的に整理します。そして、当該商標がそれらの商品・役務との関係で、ありふれた品質表示や内容表示として理解されるのか、それとも一定の想像や連想を経る表現に受け止められるのかのかを検討します。「直ちに意味が分かる」のか、「一段の思考を要する」のかという違いは、識別力の有無を左右する重要な要素です。
また、指定商品・役務の範囲が広い場合、問題となるのはその一部に限られていることもあります。その場合、商標全体が当然に識別力を欠くと評価されるのではなく、特定の商品・役務との関係でのみ説明的とされている可能性があります。この点を丁寧に読み解くことで、少なくとも一部の商品・役務については識別力が肯定される余地が見えてくることがあります。
この視点は見落とされがちですが、商標と商品・役務の結びつき方を具体的に示すことは、抽象的な議論よりもはるかに説得力があります。需要者の立場に立ち、「この商標をこの商品に付したとき、本当に単なる説明としか受け取られないのか」という問いを軸に検討を進めることが重要です。
以上をもとに論理を組み立てる
ここまで整理してきた事情を踏まえ、最終的には拒絶理由通知に対する反論として、一貫性のある論理を構築することが求められます。3条1項6号への対応は基本的に意見書による主張が中心であり、限られた文面の中で、いかに的確にポイントを押さえるかが成否を分けます。
まず重要なのは、商標の構成自体についての説明です。当該商標が辞書的意味を有する語から成る場合でも、その結合態様、語順、全体としての印象が通常の用法とは異なること、あるいは特定の意味に直結しないことを具体的に示します。単に「造語である」と述べるだけでは足りず、なぜ需要者が直ちに商品の内容等を認識しないのかを、実際の言語感覚に即して説明することが重要です。
次に、引用資料に対する評価を示します。審査官が挙げた使用例が、どのような文脈で使われているのかを分析し、それが一般的な品質表示や内容表示として定着しているといえるのかを検討します。限定的な分野や特殊な場面での使用にとどまる場合には、「一般的表示」とまではいえないことを指摘する余地があります。
さらに、他の登録例の存在や登録経過を踏まえた説明を加えることで、実務の整合性の観点からも本件商標に識別力を認めることが不自然ではないことを示します。ただし、他の事例に過度に依拠するのではなく、本件商標固有の事情との共通点を明確にすることが必要です。
一方で、無理のある主張は避けるべきです。明らかに商品の内容を直接表示する語について「全く意味がない」と主張するような態度は、全体の信用性を損なうおそれがあります。強弱をつけ、本当に争うべき点に焦点を当てることが、結果的に説得力を高めます。複数の観点が相互に関連する場合も多いため、個別の主張がばらばらにならないよう、全体として一つの結論に向かう流れを意識して論理を組み立てることが大切です。
まとめ
3条1項6号に基づく拒絶理由通知は、「商標として機能しない」という根本的な評価に関わるものであり、出願人にとっては厳しい指摘に感じられることが少なくありません。しかし、その判断は常に具体的事情に基づく相対的なものであり、適切な整理と説明によって見解が改められる余地は十分にあります。
対応の出発点は、拒絶理由通知の内容を正確に読み解くことです。引用資料の意味や使用態様、対象とされている商品・役務との関係を丁寧に確認することで、審査官の前提に対する疑問点や補足すべき事情が明らかになります。そのうえで、社会における実際の用語の使われ方や、類似する商標の登録状況などを踏まえ、当該商標が必ずしも一般的表示にとどまらないことを具体的に示していきます。
また、商標と指定商品・役務との関係を改めて検討し、需要者がどのように受け止めるかを現実的な視点から説明することも重要です。抽象的な法律論だけでなく、実際の取引の場面を想定した説明が加わることで、主張の説得力は高まります。
最終的には、これらの要素を整理し、無理のない範囲で一貫した論理として提示することが求められます。3条1項6号の問題は一見すると難解ですが、事実関係を丁寧に積み上げ、需要者の認識という視点に立ち返ることで、十分に対応可能な領域でもあります。
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