商品ブランドの多様な守り方~ポッキー立体商標登録を参考に~

ポッキーの立体商標が登録

チョコレート菓子として長年親しまれてきた「ポッキー」は、日本国内だけでなく海外でも広く知られるブランドです。その特徴的な形状と食べやすさから、多くの人にとって「おやつの定番」となっています。先月、このポッキーの形状について、新たに「立体商標」として商標登録が認められました。立体商標とは、文字やロゴだけでなく、商品の立体的な形そのものを商標として登録し、独占的に使用できる権利を指します。形状は視覚的に記憶されやすく、消費者が無意識に商品を選ぶ際の重要な手掛かりとなります。
今回の登録は、単なる菓子の形を守るという以上の意味を持ちます。長年にわたるブランド構築の成果として、その形状自体が消費者に強く結びつき、識別力を獲得したことが、公的に認められたということです。形状が法的に保護されれば、他社が同じような見た目の商品を製造・販売することを制限でき、ブランドの独自性を維持できます。これにより、市場での差別化がより確実なものとなり、安定した顧客基盤を築く助けとなります。
企業が長期的に競争力を保つには、味や機能だけでなく、視覚的な特徴を守ることも不可欠です。今回のポッキー立体商標登録は、その重要性を改めて示す事例となっています。

名称は既に商標登録

ポッキーという名称は、発売当初から商標登録によって守られてきました。「ポッキー」という言葉は日常会話で自然に使われるほど浸透していますが、もともとは造語であり、一般名詞ではありません。このため、商標としての識別力が極めて高く、「ポッキー」と聞けば誰もが特定のチョコレート菓子を思い浮かべます。これは商標戦略の理想的な成功例といえます。
商標登録された名称は、同じ商品分野で他者が同一または類似の名前を使うことを禁止できます。例えば、「ポッキー」という名前はもちろん、「ポキィ」や「ポッキィ」のように音や見た目が似ている名前も、消費者が誤認するおそれがあれば登録商標権の侵害に該当します。こうした排他的使用権は、模倣品や便乗商法を防ぎ、ブランドの価値を保つ上で大きな役割を果たします。
さらに、名称の浸透は広告効果を倍増させます。テレビCMや店頭で名称を見聞きするだけで、消費者が味や形状を想起できるようになれば、購買意欲が自然と高まります。商標権による名称保護は、こうした無形の価値を長期的に維持するための強力な仕組みです。

不正競争防止法でも一定の保護

ポッキーのように名称だけでなく形状やパッケージが強く印象付けられている商品は、不正競争防止法によって保護される場合があります。この法律は、事業者間の公正な競争を維持するために、不正な模倣行為や混同を引き起こす表示を禁止しています。特に、全国的に広く知られている商品形態を模倣して販売すれば、消費者が誤って購入するおそれがあるとして差止請求や損害賠償請求が可能となります。
ポッキーの場合、その細長いビスケットにチョコレートを部分的にコーティングした形や、赤を基調としたパッケージは、長年の販売と広告活動を通じて広く認知されています。このため、類似する形状やデザインの商品が市場に出れば、消費者が「あれはポッキーの仲間かも」と誤解する可能性が高いといえます。こうした誤認混同を防ぐため、不正競争防止法は有効な手段となります。
しかし、この法律を適用するには、形状やデザインが相当範囲で周知されていることを客観的に立証する必要があります。販売実績、広告の露出度、消費者調査など、多くの証拠を揃えなければならず、実務的には容易ではありません。この点が、不正競争防止法だけに頼った保護の難しさです。

立体商標登録の必要性

名称を商標で守り、不正競争防止法で形状やデザインを守ることは可能ですが、これだけでは不十分な場合があります。商標法は基本的に文字や図形を対象としており、形状は原則として登録の対象外です。不正競争防止法は立証の負担が大きく、模倣品が市場に出てからでないと差止めが難しいという時間的制約もあります。
そのため、形状自体が強いブランド要素である場合、立体商標として登録することに大きな意味があります。立体商標が登録されれば、模倣品の製造や販売を事前に防ぐことができ、市場への侵入を抑える予防効果が高まります。特に食品や日用品のように、機能や味が容易に真似される分野では、視覚的な独自性を独占することが競争力の源泉となります。
ポッキーの形状は、発売から半世紀以上変わらず、消費者の記憶に深く刻まれています。その視覚的特徴を直接権利化することで、他社が紛らわしい商品を出す余地を大幅に減らせます。これこそが、立体商標登録の実務的な価値です。

90%以上が認知

立体商標の登録を受けるには、形状が単なる装飾や機能的な形であるだけでなく、消費者にとって出所識別機能を果たしていることが必要です。このため、形状がどれほど広く認識されているかを示す証拠が不可欠です。消費者調査は、その有力な手段です。
ポッキーのケースでは、調査の結果、およそ90%以上の人が形状だけで江崎グリコの商品だと答えました。この圧倒的な数字は、形状が単なる菓子の一形態ではなく、ブランドそのものを象徴していることを裏付けています。これほどの認知度があれば、特許庁も識別力を認めやすく、登録のハードルを越えることができます。
このようなデータは、一朝一夕には得られません。長年の広告活動、販売実績、イベントやキャンペーンなどの積み重ねが、消費者の記憶に形状を刷り込みます。認知度を高める努力と、その成果を数値化する取り組みが、立体商標登録の成否を左右します。

ビジネスの実態に即した対策が必要

市場では、人気商品の形状や特徴を模倣し、別名で販売する例が少なくありません。こうした行為は、価格競争を招き、ブランド価値を損なうリスクがあります。ポッキーの場合、名称が保護されていても、形状だけを真似して別の名前で販売されれば、消費者の一部は混同し、売上やブランドイメージに影響が出る可能性があります。
製法や構造に新規性があれば特許で守ることも可能ですが、ポッキーは発売から年月が経っており、その道は現実的ではありません。残された有効な選択肢が、形状を立体商標で押さえる方法です。これにより、名称が異なっても形状が同じまたは類似すれば販売差止めを請求でき、ブランドの独占性を強化できます。
実際のビジネスでは、模倣品との戦いは法廷だけでなく、市場でのブランド力維持という日々の競争でもあります。立体商標は、その競争を有利に進めるための強力な盾となります。

まとめ

ポッキーの立体商標登録は、形状保護の重要性を示す象徴的な事例です。名称の商標登録や不正競争防止法だけでは守り切れない部分を、立体商標が補完します。形状が高い認知度を持ち、消費者にブランドを連想させる場合、その保護は企業の持続的成長に直結します。
ブランドは名称、ロゴ、形状、色彩、パッケージなど多くの要素で構成されます。どれが自社の強みで、どれを守るべきかを見極め、それぞれに適した権利を組み合わせることが、競争優位を築く鍵となります。ポッキーの事例は、その戦略の一つの到達点といえるでしょう。
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