不使用取消請求審判を起こされた際の対処法

不使用取消請求審判を起こされたら

商標登録を受けると、その商標について独占的に使用できる地位を得ることができます。しかし、商標制度は「使われる商標」を保護する制度であるため、長期間使用されていない商標については、第三者から不使用取消請求審判を提起されることがあります。特に、自社が保有している商標と類似する名称やロゴを利用したい第三者から、「その商標は使われていないのだから取り消してほしい」という形で請求されるケースは少なくありません。
実際、企業側からすると、「せっかく取得した商標なのに、なぜ他人から取り消しを求められなければならないのか」という感情になることは自然です。商標登録には出願費用や登録費用だけでなく、ブランドを考え抜いた時間や思い入れが存在しています。とりわけ、創業時に苦労して決めた名称や、将来的な事業展開を見据えて押さえていた商標について取消請求を受けた場合には、「自分の財産を奪われる」という感覚に近い怒りを覚えることもあります。
しかし、この段階で感情的に反応することは危険です。不使用取消請求審判は、単なる嫌がらせではなく、法律上認められた正式な制度です。そして、制度として存在している以上、感情論ではなく、法律上どのように対処するかを冷静に考える必要があります。
仮に、商標を実際には使っていなかった場合であっても、直ちに絶望的というわけではありません。請求人側にも事業上の狙いや事情があるため、必ずしも全面対決だけが唯一の結論になるとは限りません。
したがって、不使用取消請求審判を起こされた場合には、まず「腹が立つ」という感情を一旦横に置き、「どのような対応が最も合理的か」という観点から状況を整理することが重要です。自社にどのような証拠があるのか、どの程度勝算があるのか、相手方は何を求めているのかを丁寧に見極めることで、その後の手続の方向性は大きく変わります。
不使用取消請求審判は、単に商標を守れるかどうかだけでなく、今後のブランド戦略や事業展開にも影響する手続です。だからこそ、感情に流されるのではなく、制度の仕組みを理解したうえで、慎重かつ戦略的に対応していくことが必要になります。そこで本稿では、不使用取消請求の審判を起こされた場合の対処法を解説します。

過去3年間の使用実績の証拠を集める

不使用取消請求審判において最も重要になるのは、「過去3年以内に商標を使用していたことを証明できるか」という点です。商標法上、継続して3年以上使用されていない商標については、第三者から取消請求を受ける可能性があります。逆に言えば、指定商品または指定役務について適法な使用実績が存在していれば、商標権者側は商標を維持できる可能性があります。
そのため、審判を起こされた場合には、まず徹底的に証拠を集める必要があります。ここで重要なのは、「自分では使用していたつもり」という感覚ではなく、客観的に使用事実を裏付けられるかどうかです。審判では、単なる記憶や主張だけでは足りず、第三者的な裏付けを伴う資料が重視されます。
実務上、特に価値が高いとされるのは、取引先との間でやり取りされた客観的資料です。たとえば、納品書、請求書、領収書、発注書、出荷記録、カタログ送付記録などは、有力な証拠になり得ます。これらの資料には日時が記録され、さらに第三者との取引の存在が反映されているため、証拠としての信用性が高く評価されやすいのです。
一方で、商標権者本人が作成した資料については慎重に扱われます。たとえば、自社で後から作成した一覧表や説明資料は、「本当に当時存在していたものなのか」という疑問を持たれやすく、単独では強い証拠になりにくい傾向があります。
また、誤解されやすい点として、デジタルカメラの写真があります。「商品に商標が付いている写真があるから大丈夫だろう」と考える人は少なくありません。しかし、写真は撮影日時の改変可能性などもあるため、それだけで使用実績を完全に立証できるわけではありません。もちろん補助資料として意味を持つ場合はありますが、写真単体では決定打にならないケースが多いのです。さらに、人の証言についても基本的に採用されません。
ここで重要なのは、単発の証拠だけを探すのではなく、「使用実績の流れ」を示すことです。たとえば、商品の仕入記録、在庫記録、出荷記録、広告資料、販売実績などを時系列で並べることで、「実際に継続的な商取引が存在していた」という全体像を示しやすくなります。審判官に対して自然なビジネスの流れを見せることができれば、個々の証拠の説得力も増していきます。
不使用取消請求審判では、証拠の有無が勝敗を大きく左右します。そして、その証拠は「量」だけでなく、「客観性」「継続性」「指定商品との対応関係」といった複数の観点から評価されます。だからこそ、感覚的な対応ではなく、証拠として通用するかを意識しながら丁寧に資料を収集していく必要があります。

代理人を選ぶ

不使用取消請求審判を適切に進めるうえで、代理人選びは極めて重要です。商標に関する手続である以上、多くの人はまず「出願を担当した弁理士に相談しよう」と考えます。もちろん、それ自体は自然な流れですし、実際に多くの案件では弁理士が代理人として対応しています。しかし、どの専門家に依頼するかによって、手続の進め方や最終的な結論が大きく変わることもあるため、単純に「昔から付き合いがあるから」という理由だけで決めるのは危険です。
不使用取消請求審判は、行政手続ではあるものの、民事訴訟法の規定が一部準用される非常に訴訟的な手続です。証拠の提出方法、主張の組み立て方、立証責任の考え方など、裁判実務に近い感覚が求められる場面が少なくありません。そのため、単に商標出願経験が豊富というだけでは十分でないケースもあります。
特に重要なのは、「その案件がどれほど複雑か」を見極めることです。たとえば、明確な使用証拠が大量に存在し、誰が見ても継続的な使用が確認できるような案件であれば、比較的オーソドックスな対応で済むこともあります。このようなケースでは、審判経験がそれほど多くない弁理士であっても、大きな問題なく対応できる可能性があります。
しかし、現実にはそう単純な案件ばかりではありません。実際には、「使用していたが証拠が断片的」「使用主体がグループ会社になっている」「商標の表示態様が登録商標と微妙に異なる」「指定商品との関係が曖昧」など、複雑な争点が生じることが多々あります。こうした案件では、単純な書類提出だけでは足りず、複数の証拠を組み合わせて論理的に主張を構築する必要があります。
そのような場合には、裁判経験の豊富な弁護士の関与が非常に有効になることがあります。特に、証拠評価や間接事実の積み上げに関しては、民事訴訟の経験が豊富な弁護士の能力が大きく活きる場面があります。証拠が弱い案件ほど、「どの事実をどうつなげれば審判官が自然な推認をできるか」という構成力が重要になるためです。
また、相手方との交渉可能性がある場合にも、代理人の力量差は大きく影響します。不使用取消請求審判は、単純な法律論だけではなく、事業上の利害調整が背景にあることが少なくありません。そのため、単に法律知識があるだけでなく、交渉力や戦略的判断力を備えた専門家が必要になるケースもあります。
依頼者側としても、「絶対に守ってほしい」という感情だけで代理人を選ぶべきではありません。むしろ、「厳しい点を冷静に指摘してくれるか」「証拠の弱点を具体的に分析してくれるか」「代替案を提示してくれるか」といった観点で見極めることが重要です。
代理人選びは、単なる「手続代行者選び」ではありません。不使用取消請求審判においては、どのような証拠を採用し、どのような理論構成で審判官を説得するかが極めて重要です。その意味で、代理人は単なる事務担当ではなく、「戦略を共に考えるパートナー」と言える存在です

間接事実の構造を組み立てる

不使用取消請求審判では、「決定的な直接証拠」が最初から揃っているケースはそれほど多くありません。むしろ実務では、「完全な証拠は存在しないが、複数の事情を総合すれば使用していたと考えるのが自然である」という形で立証が進むことが多いです。そのため、重要になるのが「間接事実の構造」をどう組み立てるかという問題です。
たとえば、商標が付された商品そのものの現物が残っていない場合でも、商品の仕入記録、販売先とのメール、配送伝票、カタログ掲載履歴、広告出稿記録、展示会資料などが残っていることがあります。これらは単体では決定打にならなくても、複数を組み合わせることで、「この商品は実際に流通していた」「その商品には当該商標が付されていた」という推認を導く材料になります。
ここで重要なのは、証拠を単発で見るのではなく、「ストーリーとして自然につながるか」を意識することです。審判官も人間ですから、断片的な資料を無理やり並べられるより、「この会社はこういう商品を仕入れ、こういう形で販売し、その過程でこの商標を使用していたのだな」と自然に理解できる構造の方が説得力を持ちます。
また、間接事実の構築では、「何が足りないか」を発見する視点が重要になります。最初は十分と思っていた証拠でも、実際に整理してみると、「販売記録はあるが、商標表示との結び付きが弱い」「広告資料はあるが、日時が不明確」「取引先資料はあるが、指定商品との対応が曖昧」といった問題が見えてくることがあります。
この段階で、追加資料を補充できるかどうかが勝負を分けることがあります。たとえば、取引先に協力を依頼して当時の注文履歴を再発行してもらったり、展示会の主催者から出展記録を取り寄せたり、物流会社のデータを確認したりすることで、証拠構造の弱点を補強できる場合があります。
また、代理人との連携も極めて重要です。依頼者本人は、自社の業務内容を理解している反面、「どの資料が法的に重要なのか」がわからないことがあります。逆に、代理人は法律構成には強くても、会社内部の業務フローを完全には理解できません。そのため、「どのような取引実態だったのか」「当時どのような販売方法を採っていたのか」を丁寧に共有しながら、一緒に立証構造を作り上げる必要があります。実際、良い代理人ほど、「もっとこういう資料はありませんか」「この流れを示せる記録は残っていませんか」と細かく確認してきます。依頼者としては面倒に感じるかもしれませんが、その作業こそが立証の精度を高める重要な工程です。
証拠が弱い案件ほど、「どうせ無理だ」と諦めてしまう人もいます。しかし、間接事実を丁寧に積み重ねることで、十分に戦えるケースは少なくありません。逆に、証拠があるにもかかわらず、構造化が不十分で説得力を失ってしまうケースもあります。
不使用取消請求審判においては、単に資料を提出するだけではなく、「どのような推認過程を経て使用事実を認定してもらうか」を意識した設計が必要です。だからこそ、間接事実の構造を戦略的に組み立てる作業は、極めて重要な意味を持っています

柔軟に和解を検討せよ

不使用取消請求審判を提起されると、多くの商標権者は「相手と徹底的に戦わなければならない」と考えがちです。特に、自社が長年保有してきた商標について取消請求を受けた場合には、「権利を奪おうとしている相手を許せない」という感情が先行しやすくなります。しかし、実務的には、全面対決だけが最善とは限りません。むしろ、一定の場面では柔軟な和解的解決を模索した方が、結果として双方に利益をもたらすことがあります。
まず理解しておくべきなのは、不使用取消請求審判には民事訴訟法上の和解規定がそのまま適用されるわけではないという点です。つまり、通常訴訟のように裁判所で正式な和解調書を作る制度とは異なります。しかし、だからといって当事者間の協議や合意が不可能という意味ではありません。実際には、審判外で話し合いを進め、一定の条件整理を行うケースは存在します。
そもそも、請求人側にもビジネス上の目的があります。単に嫌がらせをしたいわけではなく、自社が利用したい名称やブランドについて、障害となっている登録商標を整理したいという動機があることが多いのです。つまり、請求人側も「商標権者を徹底的に打ち負かしたい」のではなく、「自社事業を円滑に進めたい」という実利的な目的を持っている場合があります。
そのため、双方が冷静に利害関係を分析すると、「全面対決よりも棲み分けを図った方が合理的」という結論になることがあります。たとえば、地域や商品分野を整理することで競合を避けられるケースや、一部の指定商品を整理することで共存可能になるケースもあります。
また、商標紛争は感情的対立に発展しやすい反面、ビジネス上は将来的な協力関係につながる可能性もあります。特に同業界では、完全な敵対関係を作ることで市場全体に悪影響が出ることもあります。過度な対立は、業界内での評判、取引先との関係、将来の提携可能性などにも影響を与えかねません。
もちろん、安易な譲歩をすべきという意味ではありません。実際には、相手方が極めて攻撃的であったり、将来的なブランド侵害リスクが高かったりするケースもあります。そのような場合には、毅然と争う必要があります。しかし、「取消されるか維持されるか」の二択だけで考えるのではなく、「どのような着地点なら自社にとって最も利益が大きいか」という視点を持つことが重要です。
また、和解的解決を模索する際には、感情を整理することが不可欠です。不使用取消請求を受けた直後は、「なぜこんなことをされなければならないのか」という怒りが強くなりがちです。しかし、その感情だけで判断すると、必要以上に対立を激化させてしまう危険があります。
むしろ、相手方も「事業を進めたい」という事情を抱えていることを理解し、「どうすれば双方が無駄な消耗を避けられるか」という視点を持つことで、より建設的な結論に至ることがあります。商標は本来、事業活動を支えるための制度です。その制度を「感情的な勝敗」のためだけに使うのではなく、事業戦略全体の中で位置付けることが大切です。

まとめ

不使用取消請求審判を起こされると、多くの商標権者は強い不快感や怒りを覚えます。自ら費用をかけて取得し、長年保有してきた商標について、「使っていないのだから消すべきだ」と第三者から主張されれば、感情的になるのも無理はありません。特に、創業時から使ってきた名称や、将来的な事業展開を見据えて確保していた商標であればあるほど、「自分の権利を奪われる」という感覚になりやすいものです。
しかし、不使用取消請求審判は、商標制度上正式に認められた手続であり、感情論だけでは対処できません。重要なのは、「怒りに任せて反応すること」ではなく、「どのような対応が最も合理的か」を冷静に分析することです。
その際、まず最優先で行うべきなのが、過去3年間の使用実績に関する証拠収集です。不使用取消請求審判では、「実際に使用していたか」が中心的争点になります。そして、単なる記憶や主張ではなく、客観的資料によって立証する必要があります。特に、納品書、請求書、出荷記録、広告資料など、第三者との取引を示す証拠は重要な意味を持ちます。
一方で、デジカメ写真や当事者の証言だけでは十分な立証にならないケースも多く、証拠の信用性には十分注意しなければなりません。また、単発の資料だけではなく、「どのようなビジネスの流れの中で商標が使用されていたか」を全体として示すことが重要になります。
そして、その立証活動を支えるのが適切な代理人です。不使用取消請求審判は訴訟的要素の強い手続であり、案件によっては高度な証拠分析や法的構成が必要になります。単純な案件であれば一般的な弁理士対応でも問題ない場合がありますが、証拠関係が複雑な案件では、訴訟経験の豊富な弁護士の力が重要になることもあります。
さらに、実務上は「直接証拠がないから終わり」というわけではありません。複数の間接事実を積み上げることで、「実際に使用されていた」という推認を形成できるケースは少なくありません。そのため、証拠を単に集めるだけでなく、「どの証拠がどの事実を裏付けるのか」を整理し、全体として自然なストーリーを構築することが必要になります。
また、不使用取消請求審判では、「勝つか負けるか」という二元論だけで考えない姿勢も重要です。請求人側にも事業上の目的があり、単なる敵意だけで動いているわけではありません。そのため、場合によっては、棲み分けや条件調整によって、双方にとって合理的な解決が可能になることもあります。
商標制度は、本来、事業活動を円滑に進めるための制度です。不使用取消請求審判についても、単なる感情的対立として捉えるのではなく、「自社にとってどの対応が最も利益につながるか」という視点から戦略的に考える必要があります。冷静な証拠分析、適切な専門家選び、柔軟な交渉姿勢を組み合わせることで、不使用取消請求審判に対してより適切に対応することができます。
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