相談者(30代男性)
私は子どものころから算数が大好きで、暗算が得意です。日常生活ではほぼ電卓なしですべて暗算で計算できるのですが、最近、AIが出てきて非常に早く正確に刑s団をきおなしてしまいます。「AIに奪われる仕事」といった言葉もしばしばみかけますが、私の計算力のようなスキルはAIに代替されてしまい、もはや無用の長物なのでしょうか。
回答者:弁理士
計算力があるというのは立派なスキルです。もちろん、早くて正確に計算をこなすAIを活用できる場面ではAIを活用すべきですが、必ずしもあらゆる場面でAIを活用できるわけではありません。新事業を展開するにあたり、収益性を感覚的に把握したり、財務諸表を見ておかしいところに違和感を感じるためには計算力が不可欠です。計算力に限らず、AIに代替されたと思われる強み全般に言えますが、他のスキルと組み合わせるなどして「AIの活用できない場面」で有効活用する余地は多分にあると思います。
AIが得意とするスキルは不要か
近年のAIの進歩は目覚ましく、これまで人間が長い年月をかけて習得してきたさまざまなスキルを、高い精度で短時間に処理できるようになっています。文章作成、翻訳、情報整理、画像生成、プログラミング支援など、多くの分野でAIは人間を上回る処理能力を発揮しており、その性能は日々向上しています。こうした状況を見ると、「苦労して身につけたスキルが無意味になってしまうのではないか」と不安を抱く人がいても不思議ではありません。
実際、正確性や処理速度だけを比較すれば、人間よりAIの方が優れている場面は数多く存在します。同じ結果を得られるのであれば、より短時間で、しかもミスの少ない方法を選択することは合理的な判断です。企業活動においても、生産性向上やコスト削減の観点からAIを積極的に導入する流れは今後も続くでしょう。人間が時間をかけて処理していた業務をAIに任せることは、経営資源を有効活用するうえでも自然な選択となっています。
しかし、この事実だけを見て「AIができるスキルは不要になった」と結論づけるのは早計です。AIが高い能力を発揮することと、人間がそのスキルを身につける価値が失われることは、必ずしも同じ意味ではありません。人間が習得した知識や技術は、単に成果物を生み出すためだけに存在するものではなく、物事を理解し、異変に気付き、適切な判断を行うための基礎にもなっています。AIが最終的な処理を担う場面であっても、その結果を受け止める人間側に一定の能力がなければ、適切な活用は難しくなります。
また、一つのスキルは、本来想定されていた用途だけで役立つものではありません。ある能力を身につける過程では、関連する知識や思考力も同時に養われています。そのため、AIが本来の作業を代替できるようになったとしても、その能力が別の場面で価値を持つ可能性は十分にあります。長年培われたスキルは、単なる作業能力ではなく、物事を見る視点や考え方としても機能するためです。
そこで本稿では、AIによって代替されると考えられがちなスキルについて、それでも価値を失わず、どのような形で活用できるのかという視点から考えていきます。
計算力は汎用力
計算という分野に限って言えば、人間がAIに勝つことは極めて困難です。AIは膨大な計算を一瞬で処理し、複雑な数式であっても高い精度で答えを導き出します。暗算や筆算の能力をどれほど鍛えたとしても、速度や正確性だけを比較すればAIには到底及びません。そのため、単純な計算作業についてはAIを積極的に活用することが合理的であり、人間が時間をかけて処理する意義は以前より小さくなっています。
もっとも、計算力の価値は、計算そのものを行うことだけにあるわけではありません。計算ができる人は、数字を見た瞬間にその意味や規模感を自然に把握し、数値同士の関係性にも敏感になります。この感覚は、一つひとつAIに計算を依頼することとは異なる能力であり、日常的な判断や仕事のさまざまな場面で役立つものです。
また、現実には、あらゆる場面でAIを利用できるとは限りません。利用環境が整っていないこともあれば、短時間で判断しなければならない状況もあります。その都度AIを起動して確認するより、自ら概算や比較ができた方が効率的な場面は少なくありません。数字に対する感覚が身についていれば、計算結果を待つことなく、おおよその妥当性を判断することも可能になります。
さらに、計算力を持つ人は、数字の違和感にも気付きやすくなります。会計書類や集計結果などを見た際にも、数字のつながりや整合性を自然に確認する習慣が身についているため、わずかな不自然さにも反応しやすくなります。この能力は、単に計算機能を持っていることとは異なり、人間が数字を理解しているからこそ発揮されるものです。
このように考えると、計算力は単独の技能ではなく、数字を通じて物事を理解するための基礎能力と位置付けることができます。AIが計算そのものを代替できるようになっても、その能力を身につけている人は数字を使った判断を行いやすくなり、情報の読み取り方にも差が生まれます。計算する機会が減ったからといって、計算力そのものの価値まで失われたわけではありません。
AI時代には「計算しなくてよい」という発想になりがちですが、実際には「計算できるからこそ見えるもの」が依然として存在します。計算力は特定の作業のためだけではなく、多様な判断を支える土台として機能する汎用性の高い能力であり、その活用場面は想像以上に幅広いものだといえるでしょう。
強みは、AIに代替されても使い方次第
計算力を例に考えてきましたが、この考え方は他の多くのスキルにも当てはまります。個人でも企業でも、多くの時間や労力を費やして培ってきた強みがあるはずです。その強みは長年の努力の積み重ねによって形成されたものであり、簡単に身につくものではありません。しかし近年では、AIがその成果を短時間で実現できるようになったため、自分たちの強みが急速に価値を失ったように感じてしまう人も少なくありません。
確かに、成果物だけを比較すればAIの方が優れている場面は増えています。その結果、人間が同じ作業を続ける意味が薄れたと考えることもあるでしょう。しかし、そこで「強みがなくなった」と結論づける必要はありません。AIが代替したのは、その強みが活用される一部の場面に過ぎず、能力そのものが消えたわけではないからです。
本来、強みとは特定の作業をこなす能力だけではありません。知識の蓄積や思考の習慣、物事を分析する視点なども含めて形成されるものです。そのため、AIが一部の業務を担えるようになっても、その能力を必要とする別の場面では依然として価値を持ち続けます。重要なのは、従来と同じ用途に固執するのではなく、新たな活用方法を見いだす姿勢です。
また、AIを利用できる場面では積極的にAIを使うことも重要です。人間がAIより効率の悪い方法に固執すれば、生産性は低下し、貴重な時間や労力を浪費してしまいます。AIに任せられる部分はAIに任せ、人間はAIだけでは十分に対応しにくい場面へ力を振り向けることが合理的です。そのような役割分担を前提に考えることで、人間の強みもより効果的に生かされます。
AI時代には、これまでのように「そのスキルだけで勝負する」という考え方は通用しにくくなるかもしれません。しかし、長年培ってきた能力は依然として重要な財産です。大切なのは、その能力が使えなくなったと悲観することではなく、どのような状況であれば価値を発揮できるのかを改めて見直すことです。強みはAIによって消えるものではなく、使い方を変えることで新たな価値を持ち続ける可能性を秘めています。
他の強みとの組み合わせ
計算力だけでAIと競争しようとすれば、人間に勝ち目はほとんどありません。処理速度も正確性もAIが優れている以上、同じ土俵で優劣を競うこと自体が適切ではないでしょう。しかし、それは計算力そのものが価値を失ったことを意味するものではありません。重要なのは、計算力を単独の能力として考えるのではなく、他の強みと組み合わせて新たな価値を生み出す要素として捉えることです。
人間が持つ能力は、一つひとつが独立して存在しているわけではありません。知識、経験、判断力、交渉力、企画力、分析力など、多くの能力が相互に影響しながら仕事の成果を生み出しています。その中に計算力が加わることで、数字を踏まえた検討や判断が可能となり、思考の質そのものを高めることにつながります。AIが計算を代行できるとしても、その計算結果をどのように受け止め、他の情報と結び付けて活用するかは別の能力です。
また、一つの能力だけで高い競争力を維持できる時代は徐々に終わりつつあります。AIは個別の作業能力を急速に高めているため、人間が単一の技能だけで差別化を図ることはますます難しくなっています。その一方で、複数の能力を組み合わせて独自の価値を生み出すことは、人間にとって依然として重要な戦略となります。既に持っている能力を別の能力と結び付けることによって、新たな強みを形成できる可能性が広がります。
そのため、自分が持っている能力を「AIに負けた能力」と考えるのではなく、「何と組み合わせればさらに価値が高まる能力なのか」という視点で見直すことが大切です。長年かけて身につけた能力には、それ自体に蓄積された知識や思考方法があります。それらは他の能力と結び付くことで、より高い付加価値を持つ可能性があります。
もちろん、その組み合わせが最初から見つかるとは限りません。AI時代には仕事の内容や求められる役割も変化し続けています。その変化に合わせて、自らの強みをどのように生かせるかを試行錯誤する姿勢が重要になります。AIが対応していない領域や、人間だからこそ価値を発揮できる領域を探し続けることによって、既存のスキルは新たな形で活躍する可能性を持ち続けるのです。
場面毎の使い分け
AIが人間を大きく上回る能力を持っているのであれば、その分野ではAIを積極的に活用することが合理的です。自分に自信があるスキルであっても、AIの方が速く、正確で、効率的に処理できるのであれば、その優位性を活用しない理由はありません。AIを避け、人間だけで処理することにこだわる姿勢は、生産性の向上という観点から見れば適切とはいえないでしょう。
しかし、その一方でAIはあらゆる場面で万能というわけではありません。利用できる環境や業務内容には限界があり、人間自身が判断や確認を担わなければならない局面は依然として存在します。そのため、AIと人間を対立する存在として考えるのではなく、それぞれの得意分野を理解し、適切に役割を分担するという考え方が重要になります。
その好例として、公認会計士の業務を考えることができます。監査手続全体ではAIを積極的に活用し、膨大なデータの整理や分析を効率化することは非常に有効です。しかし、財務諸表の個々の数字について検証し、その数値が妥当であるか、不自然な点がないかを確認する場面では、地道に電卓をたたき、自ら計算しながらリスクを分析する作業が現在でも重要な意味を持っています。AIによる効率化と、人間による検証は対立するものではなく、それぞれ異なる役割を担っているのです。
このように考えると、AI時代に求められるのは「AIを使うか、人間が行うか」という二者択一ではありません。どの場面ではAIを最大限活用し、どの場面では自らの能力を発揮するべきなのかを見極めることが重要になります。その判断ができる人ほど、AIの恩恵を十分に受けながら、自身の強みも有効に生かすことができます。
AIによって不要になる能力ばかりに目を向けるのではなく、AIでは十分に対応できない場面、自分自身の能力が価値を持つ場面を見つけ出すことが大切です。長年培ってきたスキルは、活躍する場所さえ見つけることができれば、今後も十分に価値を発揮し続けます。AI時代だからこそ、自分の強みを活用できる場面を意識的に探し、その場面で積極的に能力を発揮していく姿勢が求められています。
まとめ
AIの進歩によって、多くのスキルは以前ほど希少性を持たなくなりました。これまで人間だけが担ってきた作業をAIが短時間で高精度に処理できるようになった結果、「努力して身につけた能力が無意味になった」と感じる人もいるでしょう。しかし、そのように考える必要はありません。AIが代替したのは特定の作業であって、人間が身につけた能力そのものではないからです。
大切なのは、AIと競争しようとすることではなく、AIを前提とした新しい能力の活用方法を考えることです。AIが優れている場面ではAIを積極的に利用し、人間はその能力を別の形で生かしていくことが合理的な選択になります。AIを敵と考えるのではなく、有力な道具として活用する発想がこれまで以上に重要になります。
また、一つの能力は本来の用途以外にも幅広い価値を持っています。計算力が数字に対する感覚や判断力につながるように、多くのスキルは物事を理解する基礎として機能しています。そのため、AIが一部の作業を代替したとしても、その能力が完全に不要になるわけではありません。
さらに、既存の能力は他の能力と組み合わせることによって新しい強みへと発展する可能性があります。AIが得意な部分はAIに任せ、人間は複数の能力を組み合わせながら新たな価値を創造していくことが重要になります。これからの時代は、一つのスキルだけで勝負するのではなく、複数の強みを柔軟に組み合わせながら、自分ならではの価値を高めていく姿勢が求められるでしょう。
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