相談者(40代男性)
当社では、ICタグをスマートフォンで読み込んで、イベントなどの参加者に追加情報を提示する新しいシステムを考案しました。これを特許出願したいと思うのですが、どのような特許として出願すればよいでしょうか。タグの方に着目するのがよいか、情報の流れに着目するかいくつか観点があって迷っています。
回答者:弁理士
まず先行特許をよく調査して、先行特許との違いを明確にする必要があります。そのうえで、商品化を目指すのであれば「ICタグを埋め込んだ物品」の方向で特許化を目指すべきですが、まずは全体的な仕組みについて確実に特許権を押さえるのであればシステムの特許を出願すべきです。誰が特許をどのように活用するのかを考えて組み立てるのがよいでしょう。いずれにせよ権利範囲を広く保つために最小限の構成要素を絞り込むことが大事です
特許出願の切り取り方は多様
研究開発を進めた結果、新しい技術や仕組みが生まれた場合には、その発明について特許出願を検討することになります。研究開発の過程では、当初想定していなかった技術的な工夫が加わったり、複数の技術的要素が組み合わさったりすることもあります。そのため、完成した発明を眺めると、一つの技術の中にさまざまな特徴が含まれていることがあります。
しかし、発明に含まれる技術的要素をすべてそのまま特許出願の対象にすることが、必ずしも適切とは限りません。特許出願では、権利として保護したい技術的な特徴を整理し、その中から一定の範囲を切り取って請求項などに表現する必要があります。技術全体をそのまま権利化するのではなく、どの部分を特許として押さえるのかを判断することが重要になります。
この切り取り方には、一つの正解があるわけではありません。同じ発明であっても、出願する企業の事業内容、技術の利用方法、競争環境、将来の事業展開などによって、適切な権利範囲は変わります。単に「新しい技術だから特許にする」という発想だけでは、取得した特許が事業上十分に機能しない可能性があります。
したがって、特許出願では、発明の内容を広く捉えたうえで、その中から何を権利として残すべきかを慎重に判断することが重要です。技術そのものを見るだけではなく、特許制度の中でどのような範囲を保護するのかという視点を持つ必要があります。そこで本稿では、特許出願において技術全体のどこを切り取り、どのような範囲を定めるべきかについて解説します。
まず何より先行特許調査
自社で新しい発明が生まれ、特許出願を検討する場合には、まず何よりも先行特許の調査を行うことが重要です。自社の技術だけを見て出願内容を決めてしまうと、その技術がすでにどのような形で公開されているのかを把握できないからです。特許として保護できる範囲を検討するためには、自社の発明を単独で評価するのではなく、既存の技術との関係を確認する必要があります。
先行特許を調査する際には、単に似た技術が存在するかどうかを見るだけでは不十分です。どのような技術的課題を認識し、それに対してどのような解決手段を採用しているのかを確認することが重要です。技術的な構成が似ているように見えても、解決しようとしている課題や、その課題を解決するための技術的な考え方が異なる場合があります。その違いを整理することで、自社の発明の特徴をより明確に把握できます。
さらに、先行特許との差を意識することは、特許化された後の権利の使い方を考えるうえでも意味があります。自社の権利が何を特徴として成立しているのかが明確であれば、その権利をどのような場面で活用するのかについても検討しやすくなります。反対に、既存技術との差が曖昧なまま出願すると、権利の中心が分かりにくくなり、取得後の活用方針も不明確になりやすくなります。
重要なのは、先行特許を単にまねる対象として見るのではなく、自社の発明がどこで異なるのかを確認するための基準として利用することです。先行技術との違いを明確に意識しながら発明の特徴を整理することが、権利化の段階でも、権利を活用する段階でも重要になります。
自社利用か生産委託か
特許として保護できる技術であることを確認したとしても、そこで出願内容の検討が終わるわけではありません。その特許化する技術を実際に誰が利用するのかという視点も、権利範囲を考えるうえで重要になります。同じ発明であっても、自社で利用するのか、外部の事業者に利用してもらうのかによって、技術をどのように設計し、どの部分を保護するのかという考え方が変わるためです。
自社で技術を利用する場合には、自社の事業体系との整合性を考える必要があります。研究開発部門から見れば技術的に優れた発明であっても、実際の事業の中で利用しにくければ、その特許の価値を十分に生かすことができません。したがって、出願する技術については、技術的な新規性だけでなく、自社の事業の中で無理なく利用できる構成になっているかという観点も必要になります。
特に、物の発明や物を生産する方法の発明について、生産工程そのものを外部に委託する場合には、委託先の生産体制との関係を考えることが重要です。自社が直接製造しないのであれば、実際に技術を利用する主体がどのような設備や工程を用いるのかを踏まえて、権利として確保する技術の範囲を検討する必要があります。
また、特許技術を第三者にライセンスすることを予定している場合も、考え方は同じです。ライセンス先がその技術を利用することを前提として、実際に使いやすい権利として設計されているかを確認する必要があります。権利を広く取ることだけを意識して、実際の利用場面との整合性が失われれば、ライセンスの対象として扱いにくくなる可能性があります。
つまり、特許出願では「どの技術が新しいのか」という視点だけでなく、「誰がその技術を使うのか」という視点も欠かせません。特許は技術を紙の上で保護するだけのものではなく、事業活動の中で利用される権利でもあります。そのため、出願する技術の切り取り方を考える際には、最終的な利用者を明確にしたうえで、その利用者にとって使いやすい形で権利を構成することが重要です。
汎用性を重視するか確実性を重視するか
近年は、従来の物にIT技術を付加したシステムについて、特許出願を行うケースが増えています。物そのものに加えて、情報処理、通信、制御などの技術を組み合わせることで、新しい機能や価値を実現する発明が増えているためです。このような発明については、どのレベルの技術として特許出願するのかを慎重に考える必要があります。
ここで重要になるのが、特許としての汎用性を重視するのか、それともまず確実に権利を確保することを重視するのかという考え方です。汎用性を重視するのであれば、特定のシステム構成に限定するのではなく、より広い概念として物そのものを捉えて特許出願するという方向が考えられます。物として権利を取得できれば、その物をどのような形で商品化するかについて、一定の幅を持たせやすくなります。
一方、特許権を確保することを優先するのであれば、技術的な構成をある程度細かく定め、システムとして出願するという考え方があります。広い概念で権利化を目指す場合には、既存技術との違いを説明することが難しくなることがあります。そのため、技術的特徴をより明確にした構成にすることで、権利化の可能性を高める方向を検討することになります。
この二つの考え方は、単純にどちらが正しいというものではありません。事業の将来性を広く確保したいのか、まず現在の技術について特許権を確保したいのかによって、適切な切り取り方は異なります。重要なのは、出願の段階で何を優先するのかを明確にすることです。
特許出願では、広い範囲を狙うことだけが目的になるわけでも、細かな構成に限定することだけが正解になるわけでもありません。汎用性と確実性のどちらを重視するのかを整理し、その方針に沿って技術全体から保護すべき部分を切り取ることが重要です。
いずれにせよ要素は絞りこめ
特許権の範囲は、基本的に請求項に記載された要件によって規定されます。そのため、特許出願の内容を検討する際には、どの技術的要素を請求項の中に入れるのかが非常に重要になります。発明について多くの特徴を説明できるからといって、それらをすべて請求項に盛り込めばよいわけではありません。
請求項に記載する要件が増えるほど、一般的には権利として成立する技術的範囲は限定されます。反対に、必要な要件を絞り、単純な構成として整理できれば、より広い範囲を保護できる可能性があります。そのため、特許出願では、発明に含まれる要素をすべて並べるのではなく、権利として本当に必要な要素を見極めることが重要です。既存技術との関係や、発明としての技術的特徴などを踏まえたうえで、特許として成立するために必要な要件を残す必要があります。したがって、単純化そのものを目的にするのではなく、発明の本質を損なわない範囲で余分な要件を削っていくことが大切です。
特許の価値は、単に特許番号を取得することだけで決まるものではありません。自社が重要だと考える技術について、競争上意味のある範囲を実際に保護できているかが重要です。重要性の低い要件まで請求項に加えてしまうと、第三者がその要件を回避することで、権利の対象外となる余地が生じます。その結果、せっかく特許権を取得しても、実際の技術利用に対する保護が十分でなくなる可能性があります。
そのため、どのような方針で特許出願を行う場合でも、請求項の要件は可能な限り整理し、必要最小限に絞り込むことが重要です。発明を広く説明することと、権利として広く保護することは同じではありません。明細書で発明の内容を十分に説明しながら、請求項では権利の中心となる要素を明確にするという整理が必要です。
まとめ
特許出願では、研究開発によって生まれた技術全体をそのまま権利化しようとするのではなく、どの部分を特許として保護するのかを慎重に切り取ることが重要です。その判断では、まず先行特許を調査し、既存技術がどのような課題をどのように解決しているのかを把握する必要があります。そのうえで、自社の発明がどこに違いを持つのかを明確にし、独自の技術的特徴を整理することが求められます。
さらに、実際にその特許を誰が利用するのかという視点も欠かせません。自社で利用する場合には自社の事業体系との整合性を考え、生産を外部に委託する場合には委託先の生産体制を意識する必要があります。ライセンスを予定している場合も、利用者にとって使いやすい権利として設計することが重要です。
また、物として広く利用できる汎用性を重視するのか、システムとして技術的特徴を明確にして権利確保を優先するのかによっても、適切な切り取り方は変わります。いずれの場合でも、最終的には請求項の要件を必要以上に増やさず、発明の本質を保ちながら必要最小限に整理することが重要です。
特許出願は、発明を説明する作業であると同時に、将来の事業を支える権利の範囲を設計する作業でもあります。技術のどこを切り取るかによって、取得した特許の使いやすさや事業上の価値は大きく変わります。そのため、研究開発の成果をそのまま出願書類に落とし込むのではなく、先行技術、利用者、事業上の目的、権利範囲を踏まえて、保護すべき技術の中心を見極めることが大切です。
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